梅崎桜丞
市役所前(鹿児島)駅
焼き鳥
鹿児島にいる ある女性の幸せが 未来永劫続けばと 願うのは 利己的だろうか。 暖簾が耳をかすり 右手で戸を開け店内を見渡す。 6席に隠れていた7席目が 私を招き 私は落ち着いた。 名山堀の風貌を内面化 されたような店の中。 「時間が止まっているようだ」 私は芋焼酎をポットに入った お湯で割りながら そうつぶやいた。 女将は私に微笑むと 目の前で腕を動かし始めた。 ・特大︎きな粉もち ・玉子焼き ・揚げ物盛合わせ ・おでん盛合わせ コップの焼酎が無くなる頃合いに 合わせ、だされる料理。 私の腹はもう入らないと言うが 女将の手の温もりを感じると 胃の物は私の心臓へと 居場所を変えていった。 どれくらい時間が経ったのだろうか。 一人の私は、いつの間にか客同士 一体になっていた。 私と同じように 出張者もいれば 地元の者もいる。 常連客もいれば 地元ながら初めての者もいる。 皆混ざり 大きな湯船に浸かりながら 酒と肴と女将の笑顔で 謳歌する。 昭和60年この店は始まった。 店と女将の月日が 34年を過ぎたと認識すると 私の頭の中で 歓迎できない言葉がよぎる。 「時間の限り」 私は途端に考えた。 もし、この店だけの時間を 止めることができる時計が 私の目の前にあるのならば その時計の電池を抜き 見つからないよう 時計を隠すだろう。 あと 27時間10分25秒後に 時代が変わる。 だが、この店と女将は 何も変わらない。 「なぜか?」 それは、変わってほしくないと願う 客の想いが、そうさせているからだ。 鹿児島にいる ある女性の幸せが 未来永劫続けばと 願うのは 利己的だろうか。 あるいは 利他的だろうか。 いや 私は後者ではない。 私は 女将の 永遠の幸せを願う 「 EGOIST 」