蕎麦、自然薯、温泉水。 まさかそれだけで、こんな美味しい蕎麦になるとは… 天然の自然薯をつなぎに使った蕎麦は、啜った時には変わらず、噛む毎につるみが滲み出す。 1噛み、また1噛みと、ゆっくり咀嚼する。 そして、驚くべきはこの汁だった。 ここの温泉の泉質は、濃厚な塩化物冷鉱泉であり、その塩分濃度とミネラルバランスが奇跡に近いほど「美味しい」。 だから、その鉱泉を使う事は予想されたが、全く鰹節などの海鮮系の香りや味がしなかった。 であるにもかかわらず、熱い汁のせいもあって、蕎麦から自然薯のつるみが汁に溶け出し濃度となり、程よく蕎麦に絡みつく。 いや、でも、ここの温泉水は旨味も持ち合わせているが、いくらなんでもそれだけではこの味は出せない。 仲居さんにお願いして、この汁の真相を聞いてみると意外な素材に、でも「なるほど!」と感心させられるものだった。 『少しだけ鶏ガラを入れております』 もちろん、汁に油脂など浮いている形跡もなく、香りもしない。 だから、入れていると言っても僅かであるのが分かる。 間違いない、僕が食べてきた蕎麦のなかで、1番の蕎麦料理にここで出会えた。
現存する人形町系大勝軒。 以前は銀座8丁目にあった名店『日本橋 よし町』がこの地に移り、日本橋 大勝軒として再開した。 しかし、軽い御家騒動のため店名変更を余儀なくされ現在の店名となる。 しかし、切り盛りするのは、よし町の女将と親方さん。 そう、全くその当時と変わらない逸品を今現在も提供してくれる。 秋の名月を愛でるように妖艶な美しさの天津麺、多い時には1000個を超えるほど握ったシウマイ。 その歴史ある商品に、ハワイ出身の気さくな若旦那が作る伝統的なハワイ料理が加わり、何度来てもそれらをゆっくりと楽しませてくれる。 看板が変わった事で勘違いをし、離れてしまった客もいるだろう。 けれど、今はこの客入り程度が老いた2人にはちょうどいいのかもしれない。