Kiyoshi Fujioka

Kiyoshi FujiokaさんのMy best 2022

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1

東京都

寿司

Kiyoshi Fujioka

「鮨 浩也(ひろや)」は異色の鮨屋だ。独創的な摘みと一味違う種が素晴らしい。 場所は浜松町駅から徒歩で10分程。小さな店で、個室は無く、8人掛けのカウンターのみ。石の壁と木のカウンターの組み合わせが斬新だ。ジャズ ピアノがBGMとして流れている。夜の二回転で、一斉開始。 大将の名前は浩也でなく本橋拓也氏と言い、店名はご自身の名前と父君の名前から一字づつ取ったそうだ。 大将はかなりの日本酒好きで、大将お勧めの日本酒のペアリングを頼んだ。ペアリングの酒量は少な目で(批判しているのではない)追加の日本酒も頼んだ。 摘みと握りを合わせるとかなりの品数なので、感想は一部についてのみ。 最初の摘みで心を掴まれた。白子を白味噌で味付けしたもので、上品でありながらネットリとした食感。 握りの舎利は少なめ。若干硬めに炊き上げ、赤酢と黒酢を使い分けている。酢は控えめで、舎利が強く主張するのではなく、種と合わせて美味しさを感じさせる。 最初の握りは何と鯖の棒鮨。棒鮨を切り分ける直前にバーナーで燻り、香りを付ける。視覚的にも面白いし、香りを纏った味も見事。 帆立貝の摘みは、フランス料理みたいなジュレを合わせている。 小肌の握りは他店に比べて酢は控えめで、むしろ微かな甘味を感じさせる。 摘みの3品目も面白い。薩摩芋の上に人参と苺から作ったピュレを掛けている。上品な甘味だ。 真鯛の握りとメカジキの握りも上質。 河豚は摘みと握りの中間みたいな品。多少硬めなリゾットみたいなご飯の上に焼いた河豚が載っており、独創的。 車海老の握りは、軽く揚げることにより香りが増している。 鮨屋にしては珍しく鯨も握られる。鮪に勝るほどの凝縮した鉄分感で、少し馬肉を思わせる。 筍の摘みは、微かな苦味が心地良い。 江戸前鮨屋では余り見られない鱒寿司は、上品な脂身。 鯵の握りは、青魚ならではの香りと程良い脂に陶然とする。 トロと雲丹を合わせた「トロたく雲丹」は、滑らかな食感。 追加で頼んだ穴子は、正統的な江戸前で、煮切りが見事。 締めの玉子に合わせて特別な日本酒が出される。大将のお勧め通り両者を合わせて口に含ませると、不思議なことにプリンみたいな味がする。 全体的に摘みが素晴らしい。握りに使うような素材をそのまま出すのではなく、キチンと仕事をしている。 握りは高級素材に偏らずとも、とても満足できるものだ。 「鮨 浩也」は個性的かつ素晴らしい鮨屋だ。

2

東京都

フランス料理

Kiyoshi Fujioka

2回目の訪問。 L'ARGENT(ラルジャン)は銀座四丁目交差点に在る。立地も料理も素晴らしい。 内装の基調色は黒と灰色と白だが、床は明るい茶色で、単調にはなっていない。テーブル クロスは無いものの、現代的な高級感に溢れる内装だ。 コースは品数に応じて二種類有り、我々は品数の少ない方を選んだが、少食の僕にとってはこれで十分だった。ワインはお任せのペアリングにした。アミューズ ブーシュとミニャルディーズの際に、シェフが挨拶に来てくれた。 菊芋のアミューズ ブーシュは、極限まで薄く揚げた皮の内側にネットリとしたペーストが盛られて、その上に削ったトリュフが掛けられている。食感の対比が素晴らしく、少量ながら印象に残る。 マリネしたカンパチは、上に薄く削った青リンゴを載せ、更に山葵などを練り込んだソースが掛かっている。様々な食感と味の組み合わせが見事。 パテアンクルートは、一転して古典的な味。美味しいが、他の皿に合わせて、もう少し現代的に料理しても良かったと思う。 ここで自家製のパンが出てくる。蒸した上で焼いており、中身はフワフワだが、外側はカリッとしており、単なる添え物でなく、料理としても成り立つようなものだ。 シェフのスペシャルテだというマッシュルーム。薄切りにした生のマッシュルームを、ソースの上に浮かべている。このソースは発酵させたマッシュルームに卵を混ぜており、香りと食感が良い。 クロムツは皮を微かに焦がした焼き方が見事で、シェリー ヴィネガー ソースが味にアクセントを付けている。添えた野菜は美味しくかつ美しい。 ホロホロ鶏は淡白になりがちな素材だが、トリュフ ソースが味に深みを与えている。少しレアな感じを残した焼き方も見事。 ラム レーズンのデセールは、液体窒素で粉状にしたホワイト チョコレートが掛かっている。適度に濃厚でありつつ食感が軽く、出色の出来だった。 お茶とミニャルディーズを楽しむ祭は、テラスに移動した。気温は若干低かったが、コートを羽織り、電気ストーブも付けてもらったので、和光の時計を眺めながら寛げた。 料理は全般的にプレゼンテーションが練られており、素材や食感の対比が良く考えられている。現代的に軽くても印象に残る味だ。接客は親しさを感じさせつつもプロフェッショナル。 立地、内装、料理、接客の全てが高い水準にある店だ。

3

京都府

懐石料理

Kiyoshi Fujioka

山玄茶(さんげんちゃ)は、祇園の和食店だ。 8人掛けのカウンターに加えて、個室が二つ在る。我々はカウンターに通された。 先付けは、滑らかな豆腐と弾力のある鮑とゼンマイの食感の組み合わせ。 走りの鱧の碗は見事だった。出汁は薄口ながら印象に残る。梅肉の酸味を加えた鱧も蕗も良質。 平目、烏賊、蛸などのお造りは、素材がとても良い。三種類の薬味で食べるが、その内のマスカルポーネが良く合うのに驚いた。 お勧めされた島根県の溪という酒は、切れと深みが両立しており、気に入った。 鰹のタタキは、身がキラキラ光って美しい。辛子と紅葉おろしの二種類の味付けで楽しむ。 餅米みたいな食感のご飯に乗せた喉黒は、適度な脂身。 鮎は出色だった。身が小さく稚鮎かと思ったが、琵琶湖(大将は滋賀県出身)の鮎は成魚でも小さいとのこと。微かな苦味が心地良く、骨まで難なく食べられる。山菜から作ったという緑のソースも鮎の味を引き立てている。 八寸は、鯛のちまきや蟹真薯や空豆や玉子など様々な品が楽しめる。 巻き寿司は、鮪の漬けと雲丹とイクラのとろける食感に陶然とする。 ここで、ホワイト アスパラガスの揚げ物という変化球が投げ込まれる。天麩羅専門店並みの揚げ方。並んだロースト ビーフも美味しい。 最後の鍋も素晴らしかった。蛤や筍やワカメが良質で、花山椒の上品な辛味が効いている。何より出汁が見事。 ご飯には色々な薬味を掛けて、味の違いを楽しめる。最後はご飯に濃厚な玉子を掛けたが、これは背徳感のある食感だ。 甘味が数種類。先ずはマンゴーのゼリーと苺。マンゴーのゼリーは、和食としては濃厚で、印象に残る。苺はそのまま出すのではなく、一手間掛けて周囲にゼリーを塗っている。 腹に余裕が有れば、更に甘味を追加できる。蕨餅とヨモギは上品な甘さ。最後の水羊羹は驚くほど柔らかい。締めは抹茶で。 接客は親しげで、積極的に話しかけてくれる。 料理の質を鑑みると、値段は手頃。

4

東京都

日本料理

Kiyoshi Fujioka

3回目の訪問。 津の守坂 小柴(つのかみざか こしば)は、曙橋の小さな和食店だ。大将を含めて三人体制で回している。8席のカウンタが満席だった。 鯛を蒸した餡掛け。上に乗った山葵を解すと、良い香りが立ち込める。百合根も加わっており、渾然一体の食感が素晴らしい。 虎河豚の刺身。若干燻った河豚は、心地良い弾力感。肝を添えたぽん酢に付けて食べる。 めじ鮪の刺身は、山葵でなく辛子に付けて食べるが、この相性が意外と良い。 福島の「おだやか」という酒は、スッキリとした飲み口。 金目鯛の椀。金目鯛の皮を微かに焦がした焼き方が見事。出汁も上品。 香箱蟹は、蒸して身を解した上で、再度殻に詰めている。柔らかく、かつ凝縮感のある食感。 八寸。干柿でなんとバターを挟んでいる。和食に囚われない発想。この品や牡蠣の燻製などは、酒の当てにもってこい。 海老芋の椀は白味噌が上品。 モロコの揚げ物は、パリッとした食感が見事。 焼き物の魚は三種類から選べた。食べる方としては嬉しいが、食材の管理は大変だろう。僕が選んだキンキは、少し脂の乗った素材を、皮に微かに焦げ目が付いた見事な焼き方で焼いている。 スッポンの鍋。スッポンの身はトロリとした食感。出汁は上品かつ存在感がある。 ご飯は選択肢が幾つかあり、僕は白魚の土鍋を選んだ。 デザートは果物のゼリー。和食店にしては甘味が強めで、個人的にはこういう味が好みだ。 この日のコースは量が極めて多く、後半はキツかったが、美味しかったので頑張って完食した。品数をもう少し減らしても、満足度は変わらないと思う。 素材も調理法もとても良く、満足した。

5

東京都

フランス料理

Kiyoshi Fujioka

3回目の訪問。 Asahina Gastrnome(アサヒナ ガストロノーム)は東京証券取引所の直ぐ側という意外な立地だが、取引所が重厚な石造りのため、この辺りは落ち着いた雰囲気が漂っている。 店内の基調色は銀色と灰色と白で、同系色かつ階調が付いており、壁の所々に埋め込まれた鏡がアクセントとなっている。上品さの中に華やかさがある出色の内装だ。 立体的な盛り付けのアミューズ ブーシュからコースは始まる。ブーダン ノワールのタルトは、濃厚ながら洗練された味わい。ビーツのメレンゲは軽い食感。 最初の冷前菜は、トラウト サーモンを煮凝りの中に閉じ込めて、その横にモッツェレラを添えている。見た目が美しく、ナイフを入れるのを躊躇してしまう。味ももちろん美味。 二つ目の冷前菜は、ブルターニュ地方の菓子みたいな品を、甘さを抜いて食事にしている。ジャガイモはポテト チップスみたいな奇妙な食感。この皿は理解するのが難しかった。 温前菜の牡蠣は、ミルキーで微かな酸味を湛えたソースが見事。 魚は舌平目のムニエル。食べられないが骨までもデザインに組み込んでいる。出汁から取ったソースが、とても良い。付け合わせの春野菜は、色鮮やかで爽やかな味。 黒毛和牛は、素材も火入れも見事。付け合わせは黒胡麻を練り込んだ筍で、この店としては珍しく和食の素材を使っている。二種類のソースも美味。 肉を食べている間に、木の子味のスープをサイフォンで淹れてくれる。こういう演出も楽しい。 デセールの一皿目は冷製のライチ。液体窒素を使った桜が季節を感じさせる。 デセールの二皿目は、キャラメリゼした紅玉とショコラ。ショコラは適度に濃厚。 食後の飲み物は、フレッシュ ハーブ ティーにした。目の前でサイフォンで淹れてくれるのが楽しい。 惰性で食べがちなミニャルディーズも、一つ一つの質が高い。 接客は客との間に適度な距離を置きながらも、客への目配りが的確。高級店らしい洗練された接客だ。 料理は見た目が美しく、食べる前に見入ってしまう。調理法や味付けは古典に基づきながら、現代的な感性も併せ持っている。 素晴らしい店だと思う。

6

東京都

フランス料理

Kiyoshi Fujioka

L’eclaireur(レクレルール)のシェフは天才だ。常識を覆す素材の組み合わせと薪焼きで、見事な料理を生み出している。 場所は代官山の外れ。白を基調とした明るく上品な内装。4卓と半個室という程良い広さ。オープン キッチンで薪焼きの設備が見える。 アミューズ ブーシュは、ココナッツのジュを冷製の薄いパイナップルの皮に閉じ込めたもの。一口で食べると口の中に爽やかな酸味が広がる。アヴァン デセールみたいな感じもするが、料理の導入部としても出色。 続くフィンガー フードは、白子やセロリに山芋とハーブのソースを合わせており、口の中にネットリとした食感でかつ複雑な味が広がる。薪の微かな香も良い。添えられた米麹の品は不思議な味。 ロワール産のアスパラガスに、薄くスライスされたパルメザン チーズが纏っており、複雑な食感を生み出している。 客に配られるメニューには作品番号が振られており、今回は作品4番だ。2021年9月に開店し、半年で4作目なので、シェフはかなりの多作家だ。 続くオニオンスープは作品3番で導入されたが、好評に付き作品4番にも引き継がれているそうだ。煮詰めた玉葱を微かに焦がし、病みつきになるような食感。 昆布でマリネした帆立貝に、青リンゴやアボカドやバナナが味のアクセントを付けている。帆立貝に酸味を添える手法はしばしばあるが、そこに青リンゴを使い微かな甘味も添えるのが斬新だ。 続く皿は常識を超越している。温泉玉子に発酵バターやコーヒーで味付けをしている。あり得ないような素材の組み合わせだが、全体が渾然と混ざると、文章で表現できない魅惑的な香りが広がる。 鰆の薪焼きは、外側が程良く焼けて中が半生という卓抜な火入れ。添えられたソースが二種類というのも珍しい。一つは浅利から、もう一つは茄子から作られており、味の違いを楽しめる。 肉の薪焼きは、二種類から猪を選んだ。幼い個体なので、硬い感じはせず、程良い噛み応え。 デセールは、メレンゲのようなショコラの内側にヴァニラのクリーム、その更に内側に苺という組み合わせ。多層な食感を楽しめる。 食後の飲み物はコーヒーや複数にハーブ ティーから選べる。添えたお茶菓子は、小さいながらもマンゴーの甘い酸味が鮮烈。 コースの特に前半は、一つの皿の中に様々な素材が意表を突く組み合わせで盛り込まれ、複雑な味わいを生み出している。そこに薪焼きのほのかな香りが深みを与えている。 料理は凄いし、ペアリングも中々良い。ここは再訪したい。

7

東京都

フランス料理

Kiyoshi Fujioka

Floraison(フロレゾン)は気軽な店だが、かなり高い水準の料理を供し、満足度が高い。 場所は神楽坂。4卓の小さな店を、調理三人、接客一人で回している。内装はコンクリートの壁に木をあしらい、簡素ながら品がある。最新のミシュランで一つ星を獲得したためか、土曜日の夜は数週間先まで予約が入っていた。コースだが前菜と主菜にいくつか選択肢が有り、アラカルトに近い。 前菜として選んだ牡蠣が素晴らしかった。牡蠣の上にジュレ、下にクリーム ソースが敷かれ、多彩な食感が楽しめる。牡蠣は微かに茹でて、半生の味わい。ジュレは海苔などを混ぜ込み、微かな磯の香りがする。クリーム ソースにはエシャロットの他にレモンも使われ、その酸味と牡蠣の組み合わせが絶妙だ。 温前菜は帆立貝や北寄貝のヴルーテ。ヴルーテの滑らかな食感と、北寄貝の弾力の対比が印象的だ。 本日の魚は平目。皮に微かな焦げ目を付けた焼き方も、皮から作ったというソースもとても良い。 シャラン産の鴨胸肉は、肉質も中心がピンクの焼き方も見事だ。適度に濃厚なソースが味に深みを与えている。 小さな店ながらパティシエが居り、デセールは出色だった。アーモンドのシブーストと金柑の組み合わせ。シブーストの焦げ目を付けた焼き方が見事だ。金柑は甘味と酸味の絶妙なバランス。金柑から作ったソルベも添えられ、温かいシブーストと冷たいソルベの温度の対比も印象的だ。 オーナー ソムリエのペアリングも良かった。 料理は古典を基にしながらも現代的な軽さがある。調理の技量が高く、食感が良く考えられている。手頃な値段ながら、高級店並みの料理を楽しめる。再訪したい。

8

東京都

日本料理

Kiyoshi Fujioka

2か月ぶり2回目の訪問。 「曙橋 かず」は曙橋の和食店だ。気軽な店ながら、かなり美味しい料理を楽しめる。 簡素で気楽な雰囲気の店内は、小料理屋という雰囲気。8人程掛けられるカウンターとテーブルが一卓有り、大将と女将の二人で店を回している。 最初の皿は、蛸、白魚、ワカサギ、数の子、アスパラガスの盛り合わせ。蛸は弾力感が有る。白魚は木の芽を和えて、少し苦味を加えている。中々良い出だし。 続く皿は、ご飯の上に蒸した穴子、その上に雲丹という組み合わせ。穴子はとても柔らかく、雲丹との食感の組み合わせに陶然とする。味を整える山葵も良質。出色の皿だ。 滋賀の酒「北島」は、飲み口はスッキリしつつも軽すぎず、中々良かった。 蟹真薯と蕪の椀も見事だった。蟹真薯は丁寧な仕事振りで、口の中でハラリと解れる。蕪は実が崩れる直前まで煮ており、滑らかな食感。出汁も素晴らしい。 鮃とヤリイカの刺身は堅実な味。 続く焼き物は「富士の介」という珍しい魚。近年開発された、虹鱒とキング サーモンの合いの子だそうだ。適度に脂が乗り、焼き方も良い。味を整える味噌も効果的。 長野の「積善」という酒は、微発砲の変わった味だが、悪くない。 酢の物は、もずくと赤貝。酢がとても上品。生姜が味にアクセントを付けている。 主菜は仙台牛の内腿。控え目に脂の乗った上質な素材で、外側に火が通り中は赤い焼き方も、とても良い。カウンターから調理の様子が見えるが、かなり時間を掛けて、じっくり焼いていた。和食店というより、上質なイタリア料理店で出てきそうな逸品だ。 締めは百合根と木の子の炊き込みご飯。ご飯への汁の染み込み具合が絶妙で、とても美味しい。 デザートは、チョコレートのアイスクリームを最中で包んだもの。アイスクリームは滑らかで、最中の皮はサクッとして驚くほど軽い。食感の組み合わせが見事だ。 客単価の低い店なので、使える食材に限りは有ると思うが、大将の技で素晴らしい料理が楽しめる。満足度の高い店だ。

9

東京都

天ぷら

Kiyoshi Fujioka

かつて麻布十番に「天冨良よこ田」という店が在った。過去形で書いたが、同じ名前の店は今でも在る。しかし2020年末に創業者が引退した際に経営権がチェーン店に売却され、現在その店に横田一族は関わっていない。僕は店を創業者の息子が継いだと勘違いし、去年(横田家が関わっていない)「天冨良よこ田」に訪れて、「味が大きく変わった」と驚いたものだ。しかし、息子さんが実は「天よこた」という別の店を開いていたと知り、この度訪れてみた。 場所は元の店の近く。店は6-7人掛けられる小さなカウンターのみ。一人で揚げているので、丁度いい広さだ。 最初に供された蛤の出汁が素晴らしく、その後への期待が高まる。 息子さんの揚げる天ぷらは、基本的には先代の味を忠実に受け継いでいる。精妙で極めて軽い揚げ方だ。蛍烏賊や鱒などの新作も有るものの、海老、烏賊、キス、穴子など正統的なネタが多い。時期的に山菜も幾つか有り、微かな苦味が心地良い。凝った一品料理や高級食材は無く、素朴な天ぷらだが、それがとても美味しい。 先代は接客に癖が合ったが(僕はそれも個性として受け止めていたが)、二代目は謙虚かつ適度に客と会話を交わすので、この接客は良いと思う。 ミシュランの評価に一喜一憂すべきではないかもしれないが、この店が開店一年でミシュランの一つ星を得たのは喜ばしい。ようやくクレジット カードが使えるようになったのも朗報。

10

東京都

フランス料理

Kiyoshi Fujioka

élan(エラン)は、高級感に溢れ、古典を踏まえながらも現代的な料理を楽しめるフランス料理店だ。 場所は原宿の近く。照明は暗めで、内装も暗色で落ち着いた雰囲気がある。見晴らしが良く、渋谷の高層建築を眺められる。元々の方針かコロナ禍故か知らないが、客席の間隔はかなり広め。 シェフはまだ30代前半ながら、フランスの高級店で修行した後、銀座の高名店でスーシェフを務めたという実力者だ。コースにペアリングを合わせた。 アミューズ ブーシュとして幾つかの品が供される。ホロホロ鳥から出汁を取ったスープは滋味溢れる味わい。コンテ チーズのグジュールは、しっとりとした食感。雲丹に乳製品を併せた品は、滑らかな食感で、添えた柑橘類が味にアクセントを加えている。 最近の店にしては珍しく、パンも店で焼いているそうだが、このバゲットは出色だった。合わせるオリーブ油は、とても濃厚で旨味が有る。 ホワイト アスパラガスと鰹の皿は、素材や焼き加減が良く、併せた卵黄のサバイオン ソースが上質。 続く皿は、一言で言えば野菜のサラダだが、これはとても手が掛かっている。大根、蓮根、トマト、葉物など数多くの素材が盛り込まれているが、それぞれに微妙に異なる調理が施されており、複雑な味わいが生まれている。微かなバルサミコ酢が味を整えている。 リードヴォー(胸腺)は粗野と上品さのギリギリの境を狙った品で、モリーユ茸との組み合わせが複雑な食感を生み出している。シャンパーニュ ソースも見事。 甘鯛の鱗焼きは、鱗が微かに焦げた出色の焼き方。筍や蛤やツブ貝を組み合わせて、重層的な味を生み出している。 ここまでは量が少な目だったが、続く主菜はアラカルトのような巨大な分量だった。フォアグラと鳩のパイ包みという古典的な料理だが、パイ生地の軽い食感が見事。味噌を合わせて、古典的な料理に捻りを与えている。 最近の店にしては珍しく、フロマージュが(オプションでなく)コースに組み込まれている。種類が多く、質もとても良かった。フロマージュに合わせて、数多くの食後種がワゴンに載せて運ばれてくる。シェフはフランス料理の伝統に敬意を払っているそうだ。 口直しのアヴァン デセールの際の演出が面白い。冷たいソルベだが、その場でソムリエがシェークしてカクテルを作ってソルベに掛けてくれる。 デセールは抹茶味のマスカルポーネ。濃厚ながら軽い食感で、小豆が捻りを加えている。印象的な締めくくりだった。 ソムリエ兼給仕の説明はとても丁寧。冒頭と食後の二回挨拶に来てくれたシェフは好青年。 各皿とも驚くほど手間が掛かっており、素材の組み合わせや調理方法が練られている。全般的に現代的でありながら、終盤は老舗の名店のような楽しみもある。有りそうで中々無い高級店だと思う。