「鮨 浩也(ひろや)」は異色の鮨屋だ。独創的な摘みと一味違う種が素晴らしい。 場所は浜松町駅から徒歩で10分程。小さな店で、個室は無く、8人掛けのカウンターのみ。石の壁と木のカウンターの組み合わせが斬新だ。ジャズ ピアノがBGMとして流れている。夜の二回転で、一斉開始。 大将の名前は浩也でなく本橋拓也氏と言い、店名はご自身の名前と父君の名前から一字づつ取ったそうだ。 大将はかなりの日本酒好きで、大将お勧めの日本酒のペアリングを頼んだ。ペアリングの酒量は少な目で(批判しているのではない)追加の日本酒も頼んだ。 摘みと握りを合わせるとかなりの品数なので、感想は一部についてのみ。 最初の摘みで心を掴まれた。白子を白味噌で味付けしたもので、上品でありながらネットリとした食感。 握りの舎利は少なめ。若干硬めに炊き上げ、赤酢と黒酢を使い分けている。酢は控えめで、舎利が強く主張するのではなく、種と合わせて美味しさを感じさせる。 最初の握りは何と鯖の棒鮨。棒鮨を切り分ける直前にバーナーで燻り、香りを付ける。視覚的にも面白いし、香りを纏った味も見事。 帆立貝の摘みは、フランス料理みたいなジュレを合わせている。 小肌の握りは他店に比べて酢は控えめで、むしろ微かな甘味を感じさせる。 摘みの3品目も面白い。薩摩芋の上に人参と苺から作ったピュレを掛けている。上品な甘味だ。 真鯛の握りとメカジキの握りも上質。 河豚は摘みと握りの中間みたいな品。多少硬めなリゾットみたいなご飯の上に焼いた河豚が載っており、独創的。 車海老の握りは、軽く揚げることにより香りが増している。 鮨屋にしては珍しく鯨も握られる。鮪に勝るほどの凝縮した鉄分感で、少し馬肉を思わせる。 筍の摘みは、微かな苦味が心地良い。 江戸前鮨屋では余り見られない鱒寿司は、上品な脂身。 鯵の握りは、青魚ならではの香りと程良い脂に陶然とする。 トロと雲丹を合わせた「トロたく雲丹」は、滑らかな食感。 追加で頼んだ穴子は、正統的な江戸前で、煮切りが見事。 締めの玉子に合わせて特別な日本酒が出される。大将のお勧め通り両者を合わせて口に含ませると、不思議なことにプリンみたいな味がする。 全体的に摘みが素晴らしい。握りに使うような素材をそのまま出すのではなく、キチンと仕事をしている。 握りは高級素材に偏らずとも、とても満足できるものだ。 「鮨 浩也」は個性的かつ素晴らしい鮨屋だ。