Asahina Gastrnome(アサヒナ ガストロノーム)は東京証券取引所の直ぐ側という意外な立地だが、取引所が重厚な石造りのため、この辺りは落ち着いた雰囲気が漂っている。 店内の基調色は銀色と灰色と白で、同系色かつ階調が付いており、壁の所々に埋め込まれた鏡がアクセントとなっている。上品さの中に華やかさがある出色の内装だ。 コロナ ウィルスの再度の緊急事態宣言が発出された直後だったが、客の入りは上々だった。 ひよこ豆とビーツと鯨のタルタルを立体的に盛り付けたアミューズ ブーシュからコースは始まる。 最初の冷前菜は、毛蟹とコック貝。軽い食感のサブレの上に、多数のコック貝の切り身を立体的に盛り付けている。恐ろしく手間の掛かった品だ。見た目が美しく、ナイフを入れるのを躊躇してしまう。味ももちろん美味。 二つ目の冷前菜は、伊勢海老と根セロリのショーフロア(いったん加熱した上で冷ましている)。素材が上質で濃厚なソースも見事。 温前菜は牛の胸腺。横に添えられたトリュフ入りの卵の黄身を崩して、胸腺に掛けて食べる。胸腺の弾力感と柔らかさが混じった食感と、卵のトロリとした食感が良く合っている。下世話になりかねない食感の料理をガストロノミーに昇華させている。 魚は甘鯛の鱗焼き。鱗の食感は軽くパリパリしている。甲殻類から取った濃厚なソースも見事。何気ないズッキーニの付け合わせも、盛り付けに恐ろしく手間が掛かっている。 黒毛和牛のフィレ肉は、素材も火入れも見事。外側は炭火焼きみたいな感じだが、味わいは洗練されている。トリュフを使ったソースも素晴らしい。牛尾や玉葱などの付け合わせもとても良い。 肉を食べている間に、木の子味のスープをサイフォンで淹れてくれる。こういう演出も楽しい。 デセールの一皿目は冷製のパッションフルーツ。この爽やかな酸味に、なんと生姜でアクセントを付けている。かなり攻めたデセールだが、味の完成度は高い。 デセールの二皿目は、白桃のペッシュメルバ。甘さが適度に濃厚ながらも上品さを保っている。 食後の飲み物は、追加料金を払ってフレッシュ ハーブ ティーにした。目の前でサイフォンで淹れてくれるのが楽しい。 惰性で食べがちなミニャルディーズも、一つ一つの質が高い。 オペレーションは効率的で、客入りが良く皿数が多いにもかかわらず、皿出しは快調だ。接客は客との間に適度な距離を置きながらも、客への目配りが的確。高級店らしい洗練された接客だ。 料理は見た目が美しく、食べる前に見入ってしまう。調理法や味付けは古典に基づきながら、現代的な感性も併せ持っている。 素晴らしい店だと思う。