『2021年 フーディスト和久井の印象に残ったこの10軒』 10軒目 江戸前鮨の仕事を継承しながらも鮨飯の通説を覆す鮨を愉しむことができる鮨屋。 ご主人の佐竹大氏は、「すし乾山」などの寿司田グループで約20年修業した後、ホテルニューオータニの「久兵衛」にて研鑽を積み、2016年8月に銀座8丁目に店を構え多くの鮨通を魅了したが2020年に惜しまれつつ休業。 無駄を削ぎ落として辿り着く「百年後もスタンダードで在り続ける」極上の鮨を目指し2021年5月に再度お店をオープンさせた。 凛々しい店内は、樹齢250年といわれる吉野桧から切り出しし奈良の宮大工が手鉋で仕上げた白木の一枚板カウンターが一際目をひく。 鮨は、シャリの温度により鮨種をあわせるスタイルのしっかりと咀嚼することができる力強い鮨。 まだ湯気の上がるシャリは、粘りと歯応えのバランスのとれた山形県のつや姫に塩と2種の赤酢のみで仕上げており、噛み締めるほどにお米本来の甘味と旨みがじんわりと口中に広がる。 “鮨の主役はあくまでもシャリ”というご主人の信念があらわれている。 ●中トロ 青森・大間のまぐろの中とろは、瞬時にとろけるような舌ざわり。 脂ののりと香りのよさで一貫目から圧倒する。 ●鯵 中には当たりネギを施した鯵。 脂が適度にのって身質もなめらかながら食感は力強い。 ●春子 程よい歯ざわりの皮が柔らか過ぎない身をよく引き立てる。 シャリとの絡まり具合は、他のタネにはない風趣がある。 クラシカルな〆加減も◎ ●墨烏賊 甘くねっとりした歯ざわりの中に、清らかさが感じられる。 シャリとの一体感が素晴らしい。 ●のどぐろご飯 スペシャリテは身が無くなるほどかき混ぜて。 淡白な身質ながら味が凝縮したノドグロの旨味と 脂が酢飯と調和し食欲を刺激する。 ●鱚 塩〆で脱水した肉厚な鱚。 淡泊な身ながらも存在感を感じる軽やかな旨味がある。 ●間八漬け しっかりねかせてから切り身にし漬けにしている。 旨味が濃く、深い満足感が押し寄せる。 ●小鰭 きっちり力強い締め加減、ねかせた旨味に唸る。 ●車海老 茹で置きで旨味を優先させた海老がシャリの酸味と見事に調和。 茹で置きの海老の温度とに熱いシャリとの組み合わせが面白い。 ●鰆昆布〆 鰆の味を大切にグルタミン酸の付着と昆布の香りは極控え目。 しっとり柔らかな身が口の中でとけ、いつまでも後を引く。 ●秋刀魚棒鮨 ご主人が都内某鮨店で食べ衝撃を受けた卵黄の塩漬けがパラパラと秋刀魚の周りに振りかけられている見た目も美しい唯一無二な棒鮨。 強すぎない脂と香り、遂に出会ってしまったかと思わせる旨味に感服。 ●イシカゲ貝 小気味よい歯ざわりとみずみずしい味わい。 ●大トロ 宮城・塩釜のまぐろの大とろ。 脂の最も強い部分がシャリの高めの温度でとろけ、見事なマリアージュをみせてくれる。 甘みの後の酸味の余韻が非常に長い。 ●痛風丼 見た目も美しいバフンウニ、イクラ、白海老の通称「痛風丼」 味はもちろん言うまでもない。 ●穴子 直前にさっと炙って温めた穴子でシャリをくるむように、ふんわりにぎられている。 ツメの甘味が抑えられることで、穴子の存在感が際立ち口どけもよい。 ●玉子 ホタテ貝のすり身を入れて焼いた薄焼き卵。 丁寧な仕事が感じとれる密な断面からも、そのおいしさが伝わってくる。 締めにふさわしい、しっとり上品な甘さが嬉しい。