1996年に「南仏プロヴァンスの12ヶ月」という エッセイが世界的ベストセラーになった。 本当の生活、生きる歓びを求めて ロンドンを引き払い、 プロヴァンスに移り住んだ元証券マンは、 天国のように美しい自然と、 ワインと恵まれた食文化に魅了されたという。 かの地は、人生観を根底から変えてしまう 何かがあるのだろう。 廣瀬シェフの料理は、私を南仏プロヴァンスに 誘ってくれる。 この日、我々を迎えてくれたのは、 フランス産のアニョー・ド・レ(乳飲み子羊)。 この冬から日本に入ってくるようになったという。 生後3ヶ月、羊乳しか飲んでいない肉塊は、 鮮やかなピンク色で、命の発露を感じる。 そして、廣瀬シェフから有難い提案が、、 「どの部位を食べますか? せっかくだから全部食べてください。」 これまで使っていたベルギー産のアニョーと比べて 味が繊細で段違いに柔らかいそうだ。 今夜も名物のジュレで固めた内臓が入った 「前菜盛合せ」からスタート。 「これは凄いね」 インスタ映えするボリュームに テーブルから歓声が上がる。 気分が上がったところで、 冷えたシャンパンで乾杯する。 レバーのパテ、チーズ、生ハムが あっという間に消えた。 次は、毎度オーダーする生肉のタルタル。 廣瀬シェフは今宵、どんな仕上げをするのか、 期待が高まる。 なんと、馬肉の上には、 雲丹がトッピングされていた。 食べると、口の中が蕩ける。 悶絶した。 これぞ廣瀬マジック。 カリフォルニア・ソノマの ジンファンデルを頼み、肉三昧へ。 まずは、「トリッパ」 ぷりぷりして肉厚なトリッパと野菜と豆の 食感がたまらない。 トマトソースが安定の美味しさだ。 そして、いよいよ アニョー・ド・レ(乳飲み子羊)。 一口切って食べると、 舌が、えも言われぬ柔らかさに包まれた。 赤ちゃんのぷよぷよした肌に 触れたかのような 想定外の食感に動揺する。 だが、旨い。 これは旨い。 禁断の世界に入ってしまった。 羊乳以外のエサを食べていないので、 肉に癖がなく、超絶柔らかいのだ。 優しく噛むと、歯に肉の弾力を感じる。 まさに命の発露。 廣瀬シェフは言う。 「フランス産のアニョーは、 ブラックペッパーを振ってはいけないくらい繊細。 フランス修業時代の、あの感覚を思い出した。」 フランス人は、アニョーが肉の中で 最も上品だというが、納得の味だった。 メインは、 ボリュームたっぷりの「肉の盛合せ」。 柔らかい和牛のローストの旨みに 噛みしめると滋味溢れる鹿肉、、 肉を食らう喜びが湧き上がる。 南仏プロヴァンスのグルナッシュを 飲み干した。 この「サリン」は果実味たっぷりの 濃厚な赤ワインで、肉料理との相性は抜群。 鮮烈なブーケが湧き上がってくる。 そして、瞼を閉じれば、 煌めくプラタナスの木もれ陽が浮かぶ。 非日常の夢の世界。 今夜も廣瀬マジックに魅せられてしまった。 #中目黒 #肉好きが通う #ワインにこだわり