【 聖者達の食卓 】 聖者達の食卓。それは2012年に公開されたドキュメンタリー映画のタイトルだ。 ーー インド北西部にあるシク教総本山、ハリマンディル・サーヒブ。"黄金寺院"とも呼ばれるこの聖地では、巡礼者や旅行者に無料の食事が振る舞われる。その数なんと1日10万食。本作は、毎日300人ものボランティア・スタッフによって準備される"無料食堂"の驚くべき舞台裏を明らかにしたドキュメンタリー。 ーー 2023年の最後を締めくくるため私は、アムリトサル行きのフライトに乗り、その映画の場所、黄金寺院を目指した。それはとても霧の深い日で、靄の中に浮かび上がる美しいシク教総本山の美しい姿にただただ、魅入ってしまった。 そして、驚くべきほどの彼らの寛容性に。私はこのようなシク教の振る舞いの食事、ランガルは初めてではない。が。 ここではそれは圧倒的な人の営み、そのものの発露だった。本当に分け隔てなく、彼らと私はそこに存在していた。驚くほど私は異分子であるにもかかわらず、だ。これほどまでに、あらゆる意味での外国人を全く見ない場所、都市に出会ったことがない。 アムリトサルの冬は寒い。風はとても冷たいが、それすらも心地よく感じるほど、その場所は特別な空気に包まれている。 その、振る舞われた食事は見た目に反して、圧倒的に美味しい。それは、少し驚きでもあった。先ず完全な野菜料理であるが、しっかりと味がついている。それが、どこまでもピュアで混じり気がなく、清涼感で満ち溢れているのだ。 私は後にランチを控えているにもかかわらず、ダルをふたつともおかわりした。それほど、美味しい食事だった。特に、豆の炊き込んだご飯に塩味がしっかりあり、ダルと混ざることで素晴らしいバランスになる事への驚きだ。こういった、無料の食事なので腹を満たすだけなのかと思いきや、食事としてのクオリティが非常に高かったのである。 夜の寺院にも出かけたが、ランガルは休むことなく続き、食器を洗う音がまるで工場のように響き渡っていた。1日10万食という量、それが無料で支えられていると言うこと。 600年前に始められたそれは、インドの従来の食事を根本から変えた。それまでは、カーストや階級が異なれば、同じ場所はおろか、同じ鍋で作られたものさえ供することができなかったのだそうだ。 それは、今でもここでしか見ることができない、尊い光景である、と映画は締めくくられる。人は間違いを生み、また、その間違えを正すのだ。 人の営みは、美しい。