【進化が止まらない和食の料理人】 もともと素材に敬意を払い、和食の基本に忠実で、日本酒の知識にあふれる料理人である桐野利裕さん。 3年ぶりに会ってみると、その腕前がさらに研ぎ澄まされていた。 クロムツ、セミエビ、アマダイといった高級魚を14日間熟成させ、あるものは炙り、あるものはしゃぶしゃぶにし、あるものは藁焼きで燻す。そしてそれぞれに瀬戸内レモンの合わせ醤油や味噌、酢など別々の調味料で味わう。 後半はトマト羊羹や和風ローストビーフ桃のソースといった洋風のものも。そして、白米と削りたての鰹節、オジサンを炊き込んだ土鍋ご飯で締める。 鹿児島は薩摩川内の生まれの大将。だから、甑島の金目鯛をはじめ、新牛蒡や新里芋、黒毛和牛など鹿児島産の素材も多い。 さらにこの日驚いたのは、最初に出された「天賦」という純米大吟醸が鹿児島で醸されたものだったことだ。鹿児島でも日本酒が作られていたとは。 「焼酎『富乃宝山』の西酒造さんが、東京農大醸造学部の先輩である『十四代』の高木酒造さんに教わって作った日本酒がこちらです」大将の口からすらすらと出てくる蘊蓄は健在だ。なるほど『十四代』を彷彿とさせる香りと仄かな甘味。 そのあとも味わいの特徴的な純米吟醸酒をいくつかいただき、ゆるゆると酔いが回ってきた。 「では、デザート2種類、お出ししますので」 いま、昼間に「氷菓子mitu」の屋号で出しているかき氷が大人気で、テレビ各局はじめウェブメディアでも取材が殺到しているという。それが、新鮮なフルーツを真空ブレンダーにかけて生ジュースにして蜜を作り、薄く削ったふわふわのかき氷にかけて食べる「生かき氷」のこと。 食後のデザートの1つめとしていただいたが、なるほど、私たちが長年食べ慣れている氷菓とは全くベツモノだ。 さらに、2つめのデザートとして、シャインマスカットを挟んだもなかも出てきた。和食の料理人が本気で作ったデザートはちょっと次元が違う。 3年前に薬院の店を閉めた後、博多の他の店や熊本、北九州を転々としていた大将。これからまた業態を変えて新たなチャレンジを始めるのだという。いったい、どんな進化を遂げるのだろう?今後が楽しみだ。