東京の蕎麦屋放浪記NO.120 この日は、猿楽町にある此方のお店に行ってみた。作家の池波正太郎氏が通い詰めたという言わずと知れた名店だ。神保町駅から少し歩くが、繁華街から離れた静かな場所にあるので、行列が出来ることはあまりないのが良い。13時少し前に到着、二人掛けの一番奥の小さなテーブル席に直ぐに案内された。 此方のお店の蕎麦は、ざるの上に蕎麦の4つの山を作る独特の盛り方が特徴だ。変わり蕎麦との二色もりと田舎蕎麦との合いもりがあるが、並みそば(せいろ)と田舎蕎麦の合いもりでお願いした。当然天ぷらの名人から教えを受けたと言う天ぷらは外せないので「合いもり天ざる」。 蕎麦前は、今日は歩くつもりだったので、日本酒はやめてエビスの中瓶、日本酒に合うという「穴子の煮こごり」ではなく「卯の花」にした。「卯の花」は、冷たいと思いきや出来立てなのか湯気が出ていた。冷たいビールに温かい卯の花の絶妙な組み合わせだった。 天ぷらは、店主が自ら油受けに天ぷらを載せて、その都度客の受け皿まで運んでくれる。これが楽しみで、天ぷらを頼むお客さんが多いという。先ず、才巻海老の頭が運ばれて来た。塩をちょっと付けて、揚げたての熱々を頂きビールを流し込む。昼間酒の至福のひとときだ。続いて海老、茄子、ししとう、椎茸、最後にめそ穴子の順、厨房とテーブル間を合計6往復。自分で選んだ席ではないが、厨房から一番遠いのが申し訳ないようだった。天ぷらは、薄衣の食材を生かした揚げ方で、言うまでもなく美味しい。 椎茸の天ぷらは、珍しく軸の部分も揚げていた。ちょっと余談になるが、椎茸の軸の根本の黒っぽい部分「石づき」は食べられないが、軸の部分はかさの部分と同様に、免疫力を高めるレンチナンという栄養成分が多く、癌を抑える効果があるようだ。コリコリとした食感は食物繊維そのもので、胃腸の調子を整えてくれるという。食べた時の食感で、軸(へた)が付いているのが直ぐに分かった。 穴子だけは、衣がしっかり付いて、よく揚げられていた。食材に合わせた揚げ方で、此方のお店の天ぷらはやはり絶品だ。店主が客席に揚げたてを運ぶのが松翁のスタイル、その丁寧な仕事が客には何よりのご馳走だと感じた。 蕎麦のもりつゆは、濃いタイプか薄味のタイプかを選べる。江戸前なので、濃いタイプをお願いした。蕎麦の上に少しずつ山葵を載せ、蕎麦の先に少しだけつゆを付けてずずっと啜る。江戸前の手繰り方で蕎麦の風味を感じつつ美味しく頂いた。南部鉄瓶のような鉄器で出された蕎麦湯も美味しかった。 蕎麦も美味いが、此方のお店ではやはり天ぷらでしょうか。季節毎に色々な食材の天ぷらが登場するという。季節の移り変わりと共に天ぷらを楽しめる、そんな蕎麦処だ。 ご馳走様でした! #江戸前蕎麦の名店 #絶品の季節天ぷら #名物である4つ山の蕎麦もり