地下鉄烏丸線の北山駅から北へ上がった所に予約の取れない割烹料理店がある。古民家を巧みに改造した調理場とカウンター、それに囲炉裏の部屋もあり、料理の素材、腕も確かなら、大将の語りも冴えていて、時間の経過を忘れてしまうのだ。
■2021.10.25(月)夕餉
■お料理 お任せ¥12,000
追加料理、お酒消費税含むお会計¥17,000
■留意事項
松茸など良い材料が入手できた時は、料金は変更される。
現金決済のみ
■ご予約
一休などネットから
■本日のお料理
①お迎えのお茶
まずは、囲炉裏のある部屋に通され、赤紫蘇茶で口の中を清涼にして料理を楽しめる下地作りをする。なんでも、紫蘇には胃液の分泌を促す作用があるという。
②先付け
大きなヤツデに似た葉を敷いて出された三皿、奥の大きな器には蒸した渡り蟹に黄身酢を掛けて、身の太い大黒しめじと隠元豆を添えて、その上に針状に切った栗(針栗)を振りかけてある。と思ったが、隠元豆ではなく、今が旬の「祇園豆」と説明された。新しい食材を知るというのは楽しいことである。
手前の左には間引きの時期にある金時人参と原木栽培の椎茸、野菜の胡麻和え。柿の朽ちて色付いた葉を模した小皿を使うところが季節感を増すのである。
右側には鰆に水菜、大原の柴漬け、上に載せた南瓜は酢で味付けがされていて食欲をそそる。
③お凌ぎ
南瓜の冷製
和食の季節性は、何も食材だけではない。祇園祭には山鉾の器を使うし、端午の節句や節季にちなんだテーマを選ぶ。そして今宵はハロウィンもテーマに入れているので、南瓜や南瓜色の料理を出している。さつま芋と蒸した明石の蛸がスープに浮かび、また「うりずん」という四角い豆を散らしている。これは併せて「イモ・タコ・ナンキン」と女子の愛する食べ物もテーマとしている。一番上に緋色のエディブルフラワーを載せて色味にインパクトを与えている。また、明石の蛸は名残りの時期だそうである。大将の説明を全部暗記している訳ではないので勘弁されたい。
なお、「とかく女の好むもの 芝居、浄瑠璃、いも、たこ、なんきん」は井原西鶴の「浮世草子」に書かれていたというような一口知識を料理の説明に散りばめてくださり、身体だけでなく頭にも栄養が行き渡るのである。
④椀もの
この季節定番の松茸の土瓶蒸しである。松茸の香りは何か日本人の心の芯を揺さぶるような力を持っていて、思わず深呼吸をしてしまうのである。松茸は赤松林のしかも下草や枯れ枝などを取り除くという手間を掛けた山でないと出てこない。山で爺さんが小枝を集める(柴刈り)作業は、ガス燃料の普及とともになくなり、結果として日本の松茸はレッドブックに載るような絶滅危惧種となってしまった。
大将から松茸の産地や相場の話を伺い耳学問を重ねた。今回の松茸の産地も教えて下さったがそれはここには記さない。
⑤お造り
紋甲烏賊、明石の鯛、はまち、そして太刀魚の炙りである。すだちと山葵が添えてある。刺身はどれもこれもエッジが立っていて、大将の目利きの技が判る。大将に拠ると普段はイカタコを餌にしているが、今の時期の明石の鯛は海老を食べているので、一番コストパフォーマンスが高いそうである。また、最近は漁協から市場というルートを通さず、船から直接買って料理人まで運ぶ商売もあるそうである。
さて、大将は毎日のように丹波口の魚卸売市場に足を運ぶそうだ。今や電話だけでなくメールで食材が届く時代であるが、旬の時期、値頃感覚を養う意味もあって通っているとのこと。なお、大将の通う先はもう一つあって近所のスーパーFRESCOで、これも重宝しているそうだ。(自宅用食材のみ)
⑥雲丹
雲丹は昆布を食べる、雲丹が美味いのは餌の昆布のためであるが、ここ四年間は昆布が地球温暖化のために不作なのだそうだ。
⑥焼き物
カマス寿司である。イアン・フレミングの007シリーズで題名は忘れたが、ジェームズ・ボンドがカリブ海で潜水していると獰猛な魚であるバラクーダに遭遇する場面がある。ハヤカワのミステリ新書を読んでいて勝手に大きな魚を想像していたが、のちになってカマスの一種だと知って興醒めな思いをした記憶がある。
(今は、007の小説は新書から文庫に移っている)
また、「酒が飲める、酒が飲める、酒が飲めるぞ」と歌ったグループの名前が「バラクーダであった。あの歌の題名は「日本全国酒飲み音頭」である。
⑦炊き合わせ(煮物)
写真ではお汁粉のように見えるが、黒米のお粥である。仄かな甘さととろみで一息つく。