Rettyの星数が三つまでしかないのは残念。星五つである。和食の技を堪能した。 写真#1の一番奥のグラスから説明、九月九日の重陽の節句に因んで紫の菊花を載せた秋茄子の素麺。菊の種類は山形県産の「もって菊」で、香りと食感が群を抜いている。素麺と言っても茹で茄子を細切りにしたお浸しで、細長い麺を期待されると困る。出汁が濃く、茄子の肉の歯応えが好ましい。 写真#1を時計回りに行くと次が、北海道のシロガイ(サラガイ)の炙りで食べやすいように包丁が入れてあり、醤油を垂らして頂く。あまり市場には出回っていない貝で、淡白な味でするりと喉を通った。 シロガイの左横、鰯のカピタン漬けは、江戸時代に長崎のピエール・カピタン(キャプテン;船長)が伝えたと言われている。言い換えれば南蛮漬けである。当時は揚げ物は珍しい調理法で、西洋から伝わったと考えられている。酸味のあるつけ汁でさっぱりと頂ける。 時計でいうと3時の位置にある貝の下の青い皿が子持ち鮎の甘露煮で、鮎というとまず初夏を思い出すが、それは「走り」の時期の若鮎で小振りである。そして旬も「走り」から「盛り」に移り、最後に「名残り」の時期を迎え、鮎だと子持ちでまさしく晩夏から初秋、中秋の時期であり、腹の卵のプチプチ感を楽しむことができる。 さて、盆の中央の方形の小鉢にあるのは無花果の東寺巻き、東寺巻きというのは白身魚や海老、野菜などを湯葉で巻き、揚げるか煮たものである。東寺煮とか東寺揚げと呼ばれるのは京都の東寺が湯葉を使った精進料理で有名だったからだと言われている。 なお、京都に行くと「東寺湯葉」という名前で百合根、木耳、銀杏などを生湯葉で包み油で揚げたものが売られている。私は堺町通四条上ルの千丸屋でしか求めたことはないが、イノダコーヒ本店から堺町通りをぶらぶら南下すると千丸屋の前に出るのでお試しあれ。 時計の6時の位置にある北海道の新秋刀魚の笹巻き寿司は、薄く味付けした酢飯と一緒に一口でまさに秋の季語を体内に取り込んだ。 9時の場所にあるのは、芋名月ということで、石川芋(石川早生)の衣被ぎにずんだ豆の摺り下ろしを掛けたものは、独特のつるりとした食感が秋口の季節感を感じさせる。 10時の場所の円形の小鉢、有りの実の落花生和えは、梨の水々しいシャキシャキ感に落花生の脂が合わさり面白い取り合わせになっている。落花生はどういう手が掛けてあるのかとても濃い味で、言われなければパルメザンが掛けてあると思ってしまうほどである。なお、豆腐を作る時に出る「おから」は「空(から)」に通じるので「きらず」と言い換えるのと同じく、「梨」は「無し」に通じるので「有りの実」と言い換えている。 写真#2は新秋刀魚の笹巻き寿司を開いたところ、写真#3は説明不要だが、フワッと巻いて焼き鏝を当てた卵焼きはお出汁と砂糖の甘みで破顔した。 蕪に鶏のそぼろあんかけは、ほのかなカブラの苦味が鶏肉から出てくる甘みを引き立たせる。小かぶの季節にはまだ少し早いが、「走り」を食べるのも乙である。 縮緬干しは自家製で、煎ったあとに風を当てて乾燥させている。細かく切った大葉の香りととても相性が良く、自宅でも真似しようと思った。 この店は、香の物まで客を喜ばせる。まずタマネギの酢漬けで驚く。タマネギの辛みは抜けて優しい酢の香りと味があり、玉葱の歯応えは生と同じレベルに残している。白瓜の漬物も歯切れよく、これだけでご飯はおかわりできる。 なお、ランチであっても予約をお勧めする。カウンター8席で、なおかつ人気急上昇なのである。 また、来ます。