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Hitoshi TanakaさんのMy best 2018

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1

東京都

日本料理

Hitoshi Tanaka

Rettyの星数が三つまでしかないのは残念。星五つである。和食の技を堪能した。 写真#1の一番奥のグラスから説明、九月九日の重陽の節句に因んで紫の菊花を載せた秋茄子の素麺。菊の種類は山形県産の「もって菊」で、香りと食感が群を抜いている。素麺と言っても茹で茄子を細切りにしたお浸しで、細長い麺を期待されると困る。出汁が濃く、茄子の肉の歯応えが好ましい。 写真#1を時計回りに行くと次が、北海道のシロガイ(サラガイ)の炙りで食べやすいように包丁が入れてあり、醤油を垂らして頂く。あまり市場には出回っていない貝で、淡白な味でするりと喉を通った。 シロガイの左横、鰯のカピタン漬けは、江戸時代に長崎のピエール・カピタン(キャプテン;船長)が伝えたと言われている。言い換えれば南蛮漬けである。当時は揚げ物は珍しい調理法で、西洋から伝わったと考えられている。酸味のあるつけ汁でさっぱりと頂ける。 時計でいうと3時の位置にある貝の下の青い皿が子持ち鮎の甘露煮で、鮎というとまず初夏を思い出すが、それは「走り」の時期の若鮎で小振りである。そして旬も「走り」から「盛り」に移り、最後に「名残り」の時期を迎え、鮎だと子持ちでまさしく晩夏から初秋、中秋の時期であり、腹の卵のプチプチ感を楽しむことができる。 さて、盆の中央の方形の小鉢にあるのは無花果の東寺巻き、東寺巻きというのは白身魚や海老、野菜などを湯葉で巻き、揚げるか煮たものである。東寺煮とか東寺揚げと呼ばれるのは京都の東寺が湯葉を使った精進料理で有名だったからだと言われている。 なお、京都に行くと「東寺湯葉」という名前で百合根、木耳、銀杏などを生湯葉で包み油で揚げたものが売られている。私は堺町通四条上ルの千丸屋でしか求めたことはないが、イノダコーヒ本店から堺町通りをぶらぶら南下すると千丸屋の前に出るのでお試しあれ。 時計の6時の位置にある北海道の新秋刀魚の笹巻き寿司は、薄く味付けした酢飯と一緒に一口でまさに秋の季語を体内に取り込んだ。 9時の場所にあるのは、芋名月ということで、石川芋(石川早生)の衣被ぎにずんだ豆の摺り下ろしを掛けたものは、独特のつるりとした食感が秋口の季節感を感じさせる。 10時の場所の円形の小鉢、有りの実の落花生和えは、梨の水々しいシャキシャキ感に落花生の脂が合わさり面白い取り合わせになっている。落花生はどういう手が掛けてあるのかとても濃い味で、言われなければパルメザンが掛けてあると思ってしまうほどである。なお、豆腐を作る時に出る「おから」は「空(から)」に通じるので「きらず」と言い換えるのと同じく、「梨」は「無し」に通じるので「有りの実」と言い換えている。 写真#2は新秋刀魚の笹巻き寿司を開いたところ、写真#3は説明不要だが、フワッと巻いて焼き鏝を当てた卵焼きはお出汁と砂糖の甘みで破顔した。 蕪に鶏のそぼろあんかけは、ほのかなカブラの苦味が鶏肉から出てくる甘みを引き立たせる。小かぶの季節にはまだ少し早いが、「走り」を食べるのも乙である。 縮緬干しは自家製で、煎ったあとに風を当てて乾燥させている。細かく切った大葉の香りととても相性が良く、自宅でも真似しようと思った。 この店は、香の物まで客を喜ばせる。まずタマネギの酢漬けで驚く。タマネギの辛みは抜けて優しい酢の香りと味があり、玉葱の歯応えは生と同じレベルに残している。白瓜の漬物も歯切れよく、これだけでご飯はおかわりできる。 なお、ランチであっても予約をお勧めする。カウンター8席で、なおかつ人気急上昇なのである。 また、来ます。

2

東京都

懐石料理

Hitoshi Tanaka

銀座の外堀通りと銀座七丁目と八丁目を分ける通りのコリドー街寄りの角のビルに目立たない入り口があって、地下へ続く階段を降り、和食の店には似合わないガラスのドアを開けると正面に板さんとカウンター。カウンターの奥には食器と包丁が並び、水槽にはワケありのウツボが一匹だけ底に沈んでいる。 夏の旬を満載したランチのコースを頂いた。  先付けは「寄せ生海苔と岩水雲」、ビビッドな緑黄赤のシグナルカラーがまずは目を覚ませてくれる。被せた青紅葉の葉を取ると生海苔ともずくが酸味を出していて、そこに湯を潜らせた甘いトマト、生の南瓜のスライスが載っている。酸味と甘み、ズルズルと啜る食感と生南京の歯応えが堪らない。  椀は、「鱧の玉子蒸し」、贅沢をいうと鱧はそのまま食べたかったが、鰹節をふんだんに使ったお汁を楽しみ、万願寺唐辛子や青柚子の細切りの香りや歯応えが楽しく、錦糸瓜というのは金糸瓜とも言われて、大将の説明に依れば茹でるだけで素麺のように身が糸状に解けるのだそうだ。人生初めての食べ物、長生きはするものである。  お造りは、フクベの形の器に盛られていて、「石鯛、伊佐木、水蛸」である。石鯛はエッジが効いており、伊佐木は皮を炙っているので香ばしく、蛸もテクスチャが絶品であった。土佐醤油の小皿があったが、大将が押すので私は藻塩で頂いた。土佐醤油は勿体ないことをした。  ここで脱線するが、私のような貧客ではなく、賓客に出すお造りの準備を目の前で大将がしていた。皿に盛られる前から目が丸くなった。どの刺身も素人の私が見て大きさ、色艶が申し分ないもので自分の口に入らないのであるが、唸ってしまった。  焼き物は「ごま鯖の梅しそ焼き」である。鯖の肉の柔らかさを残した焼き加減で、何より新生姜の醤油煮は夏の刺激がした。もう梅雨はあがったのだ。  揚げ物は「芝海老と玉蜀黍かき揚げ」である。海老と玉蜀黍は火の通りが異なるので別々に揚げて合体するのだそうだ。揚げられて皮がやや硬めになりながらも甘さをましたモロコシの一粒一粒が愛おしく、普段は茹でたまんまを食べている自分を少し恥じた。美味しさを追求するのに手を抜いてはいけない。つる紫の天ぷらも季節感がある。  強肴は「芋豚の平兵衛酢おろし」である。中華素材の空芯菜を油で焦げ目を付けて汁に散らし、中央に豚の三枚肉の薄切りをまとめ、水茄子も沈めて、平兵衛酢を垂らした大根おろしの上に茗荷を載せ、カボスならぬへベス(平兵衛酢)の輪切りを添えてある。レモンやカボス、スダチは酸味の主張が強く主材に思わぬインパクトを与えがちであるが、平兵衛酢は穏やかな酸味で料理の調和を崩さない。  ご飯は「するめ烏賊の肝御飯」と味噌汁、香の物である。まずは炊き上がりの土鍋の蓋を開けて分葱を載せて客にお披露目をしてから椀に盛ってくれる演出が嬉しい。  デザートは、「無花果の水羊羹」であるが、羊羹の左右にあるのはかき氷である。羊羹との歯触りの違いを楽しめる。  食事の最中に大将から、中華や洋食の素材を使うことや、同じ客には同じメニューを出さないなど料理の工夫や心掛けの話を伺い、なるほどと何度も頷くことがあったのだが、ここには記さない。この会話が楽しかった。水槽のウツボの話も思い出すと面白かった。  この店、お勧めである。また、来ます。

3

東京都

とんかつ

Hitoshi Tanaka

とんかつを生んだ日本に居て、美味いとんかつを出すこの店でそのとんかつを食べられることに感謝する。 上ロースかつ定食を頂く。大将の話では230グラムの肉を使っているそうで、期待が昂まる。夕食にはやや早い時刻なので、客はあと一人。カウンターの向こうに大きめのフライヤーが望める。 フライヤーが大きいということは大事で、熱容量が大きいからカツを投げ込んでも油の温度が下がらない。大きな銭湯の風呂に何人入っても湯温は下がらないが、家庭用の浴槽に冷えた身体を沈めるとてきめんに湯がぬるくなる。 まず、何もつけずに箸を持ち上げ口まで持ってくると、ラードの甘い香りが鼻をくすぐる。どこの街にもあった精肉店。そこからただようコロッケを揚げている油の匂いだ。昭和の東京オリンピックを知る世代には郷愁をそそるボディーブローだ。 次に、カウンターに並べてある三種類の塩を其々に楽しんでみる。それらは、モンゴル、沖縄、ボリビアが産地である。茫漠たる草原、群青の海、そしてウユニ湖の鏡面。結局、ボリビアの岩塩のパンチ力が強く、ニターリと笑んでしまう。 肉はロースなのだが脂身が少なく、赤身の部分もヒレ肉のような印象である。この私、「ロース」ばかりで「上ロース」など食べたことがないので、これが「上」の所以なのかもしれない。ちなみにここの店のメニューはほとんどが「上」か「特」が頭に付いている。さすが銀座である。 コロモのイガイガははっきりしているが、薄くついているので肉の味を妨げない。コロモが厚いとそこに含まれるアブラが肉の味の邪魔をするのだ。 ソースは、やや甘であるがとんかつの味を殺さないように控えめな味である。 ご飯は、夕方の部が始まった幕開けの時間帯で炊きたてを出されたので、文句なし。 白味噌の豚汁は具沢山で、大根、玉葱、牛蒡、生姜が汁より量が多い。優しい味である。大きめに切った大根が嬉しい。 なお、お新香は付いていない。 なお、蒲田と大門に同じ名前の店があり、銀座店は三店舗目の店である。