春吉から渡辺通りへと歩く。 そっけない冬の空気が マフラーの隙間から肌に 触れようとしている。 街灯が疎らな町の境は 静けさと暗闇に包まれていた。 何かを探すように 私の黒い靴が 「こつっ」 「こつっ」 と音を鳴らす。 足が止まった先に見えるのは 光が閉ざされた中、身を潜め 角(かど)を立たせた 店だった。 扉を開けると ほどよい空間の小箱が 優しい温もりで歓迎してくれた。 今宵も、ひっそりと 大人の時間が始まる。 ・造り 盛り合わせ 雲丹、烏賊、アラ、鯛 鮪、トロ、太刀魚、鮑 名高い海の役者達が並ぶ。 身に浮かぶ脂は新鮮さを際立たせる。 鮨屋に似た手の温もりを感じる。 柔らかい鮑を食べると息つく間もなく 無意識に日本酒へと手が伸びた。 ・鱈白子の天婦羅 「サクッ」と上質な衣を噛み切る。 その先には、まろやかで透明感ある 白子がいた。舌の上でゆっくりと 溶けていく。 ・毛蟹の土佐酢 小さな器を覗くと毛蟹の足何本もの 身が「ぎゅっ」と詰まっていた。 その身を鰹節の効いた合わせ酢で いただく。北海道と高知の共演。 なんとも贅沢。 ・ポテトサラダ ポテトサラダは、その店のなり。 私が勝手に作った、店を知る為の一品だ。 「角と」のポテトサラダは乾きがなく 作りたての、しっとりさがある。 ある程度具材はわかる。しかし まだ他にある。それがわからない。 ただ、、ただ 、、美味い。 ・日本酒 新潟 清泉 山形 磐城 寿 宮城 乾坤一 ・焼酎 鹿児島 マムシ 厳選された食材で丁寧に作られた 料理は八面六臂(はちめんろっぴ) の輝きを持ち、深い色気で誘惑する。 美味い酒は謙虚に店を 仄(ほの)めかす。 そうやって何度もファンを 魅了する。 「おもてなしを忘れない」 「大人の店」 優しい笑顔で 私を見送る店主が 無言で私に そう語って いるようだった。 心に残るお料理でした。 ありがとうございました。 心からご冥福をお祈りいたします。