南 たすく

南 たすくさんのMy best 2021

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東京都

カフェ

南 たすく

【ミルクホール巡礼13店舗目は、芥川龍之介贔屓のお店】 東日本橋に、「創業明治10(1877)年 太田牛乳」と書かれた赤いテントのお店があります。 現存する中では、日本最古の牛乳販売店です。 芥川龍之介が近所に住んでいて、毎日買い物に来ていたそうです。 現在、1階が「太田ベーカリー」、2階が「カフェデルフリ村」として、営業されています。 まず、ガラス越しに「太田ベーカリー」を覗き込みます。 人気第1位の「カレーパン」(190円)が残っていないかと思ったのです。 でも、夕方の訪問だったため、カレーパンだけでなく、ほとんどのパンが残っていません。 残念無念と思いつつ、2階の「カフェデルフリ村」へ。 店名の「デルフリ村」は、「アルプスの少女ハイジ」に登場する村の名前です。 店内には、「ハイジの家」や「ペーターの家」の写真が飾られています。 内装も山小屋風です。 ここへ来たら、必ずオーダーするぞ、と決めていたメニューがあります。 「カレーつけパンセット」(610円)です。 これは、「ミルクホール」時代からの伝統メニュー。 しかも、牛乳の取引先だった上野精養軒とのコラボメニューだったそうです。 「ミルクホールとは何か?」について、ちょっと話しをさせてください。 日本初の「ミルクホール」は、明治5(1872)年に開店しました。 日本人の体質改善目的で、ミルクを飲むことを推奨していた明治時代に広まります。 学生を主な客層とし、手軽な軽食店として発展しました。 コーヒーの一般化とともに、コーヒーを提供する「ミルクホール」は、大正期に全盛を迎えます。 そこで、ショーケースに置いて提供されたお菓子に「シベリヤ」(羊羹をカステラで挟んだもの)があります。 「ミルクホール」は、関東大震災を期に喫茶店に取って代わられてますが、それでも昭和30(1955)年頃までは残っていたそうです。 「ミルクホール」は、Rettyを始めて以来、私が取り組んできたテーマの一つです。 此方は、その13番目の巡礼地です。 #ミルクホール巡礼 記録 「カフェデルフリ村」東日本橋 明治10(1877)年創業[創業時は牛乳屋] 「桃乳舎」日本橋小網町 明治22年(1889)年創業[創業時は牛乳屋] 「デンキヤホール 」浅草 明治36(1903)年創業 「高田牧舎(Pizzeria TAKATA BOKUYA)」早稲田 明治38(1905)年創業 「センリ軒」築地→豊洲 大正初期創業 「カヤバ珈琲」谷中 大正5(1616)年(推定)の建設以降、ミルクホールなどを経て昭和13(1938)年創業 「喫茶去 快生軒」人形町 大正8(1919)年創業 「サトリ珈琲店」王子 昭和8(1933)年9月創業 「銀座ホール」北砂 昭和10(1935)年創業 「栄屋ミルクホール」神田 昭和20(1945)年創業 「ミルクホール石川」下高井戸 昭和27(1952)年創業→閉店 「ミルクホール若葉」住吉 昭和31(1956)年頃創業 「ミルクホールモカ」千住大橋 昭和39(1964)年頃創業 この一覧を見ていただくと、日本橋の「桃乳舎」や早稲田の「高田牧舎」は、此方と同様に牛乳屋であったことが分ります。 明治初期、文明開化により、「武士」はその仕事を失いました。 そんな元武士たちの中に、政府によって奨励されている牛乳屋を始める者が居ました。 東京都心の空き地になっている大名屋敷を利用し、牛1、2頭から商売を始めることができたのです。 芥川龍之介の父、敏三は、第2次長州征伐で志願して御楯隊の砲兵となった人物です。 廿日市市における幕府軍との戦闘で左足かかとに貫通銃創を負いました。 明治になって上京し、実業家渋沢栄一と知り合い、彼の牧場「耕牧舎」を管理し、牛乳販売業を営みました。 京橋区入船町(現:明石町)にあった耕牧舎が、芥川龍之介の生誕地です。 耕牧舎は、牛乳の品質が良く、築地(→上野)精養軒(旧・西洋館ホテル)や帝国ホテルとも取り引きしていました。 さて、カレー、パン、そしてセットのコーヒーが運ばれてきました。 カレーは粘度が高いのに、ピリリと辛い。 パンにつけることを前提に調理されているのが分ります。 そして、カレーをつけるイギリスパンが美味しい。 此方のパンは、自慢の溶岩窯で焼いているそうです。 コーヒーは有機栽培の豆で、オーダー後にきちんとハンドドリップされています。 爽やかな苦味が、カレーに良く合います。 明治10年といえば、144年前。 お店が経てきた歴史に思いを馳せつつ、夕刻のひと時を過ごしました。

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埼玉県

カフェ

南 たすく

【冬の散歩道 / A Hazy Shade of Winter】 建物と建物の狭間に、細い道が伸びている。 石が敷かれ、緑に挟まれた小道。 その先に、広いガラス窓が印象的な二階建てのcafeがある。 予めそのcafeの存在を知らなければ、通り過ぎてしまっただろう。 だが、その小道を覗き込んでしまったら、もはやその魅力から目を離すことはできない。 cafeの名前は、cinq(サンク)。 フランス語で「5」のこと。 店主さんは、過去に3店舗の美容院を経営しておられた。 2009年、大宮にquatre(キャトル)=「4」というcafeを開いた。 そして、2016年の夏。 更地だった北浦和のこの場所に、古い木材を集めて、cinqを新築された。 quatreについては、2018年に閉店された。 現在は、cinqに専念されている。 古びた鉄とガラスの扉を開けると、その先は吹き抜け。 一階から二階まで突き抜ける広いガラス窓。 店内には、優しい光が溢れている。 壁、窓、床、いずれも古傷だらけの古材だ。 嬉しいことに、二階の吹き抜け脇の席が空いた。 ■林檎とメイプルのキャロットケーキ 550円(税別) 人参、林檎のソテー、ピーカンナッツ、プルーン、無花果、ココナッツ。 そして、メープルチーズクリーム。 フォークを立てると、ザックリと重く、スパイスが仄かに香る。 口に運ぶと、生地の中にも様々な食感がある。 ■全粒粉のスコーン 1個300円(税別) 四角いブロック。 埼玉県産の粉だという。 クリームと、季節のジャムを付けていただく。 ザク、ザク、ザクといただく。 この日のジャムは、キーウィ。 素材の形が残る、素朴な味わいが、たまらない。 ■マイルドブレンド 500円(税別) 私が腰かけた二階席から、吹き抜けを見下ろす。 そこに、作業スペースが見える。 此方の珈琲は、そこでハンドドリップされる。 まろやかな味わいで、スイーツだけでなくランチとも合うに違いない。 ここは、紅茶も美味しいそうだ。 teteria(テテリア)の茶葉を使っている。 珈琲を啜り、キャロットケーキとスコーンを齧る。 ケーキとスコーンの風合いある質感。 それは、このcafeを形造る古木の風格に通じる。 サンク……チュアリ、sanctuaryという言葉が連想された。 聖域に加えて、鳥獣保護区の意味合いがある。 公園に住まう栗鼠が、冬を前にして、地面に木の実を溜め込む様子が、脳裏に浮かんだ。 そんな芳醇な冬の味わいがあるケーキとスコーンだった。