珈琲とチョコレート「蕪木」。 店主は、珈琲焙煎師、そしてチョコレート技師。 珈琲、カカオ、チョコレートの研究・開発・指導に携わって来られた方です。 2016年11月7日、鳥越の工房兼喫茶を開店。 2019年3月12日の営業をもって、鳥越の店舗を移転のため閉店。 2019年12月18日、三筋にて、営業を再開されました。 鳥越のお店も、何度か訪問させていただきました。[2017/05/13投稿] お店の在りよう、店主の姿勢に、深い感銘を受けました。 期待の新店舗です。 オープンを、心待ちにしてきました。 新店舗は、期待を凌駕する完成度でした。 梅森稲荷の向い。 年季の入った古い店舗建築。 そこに、手を入れてあります。 以前は、シャッターがあった箇所。 そこに、開口部を設け、奥は壁となっています。 開口部の右手前に、小さな表札。 「蕪木」。 開口部の左手奥に、古い椅子。 その足元に立て掛けられた、小さな小さなプレート。 「珈琲チョコレート 営業中」。 そこがいかなる場所であるかを示すものは、それだけです。 「蕪木」の存在を知らなければ、開口部に足を踏み入れ、プレートを覗き込むことすらできないでしょう。 歩み寄って、「営業中」のプレートを確認。 すると、自然に、右奥へと延びた、薄暗い空間へと目が行きます。 そして、歩み寄るまでは見えなかった場所に、重厚な扉が出現しています。 1階は、工房と、レジ。 大きなロースターが据えられています。 案内に従って、2階への階段を登ります。 廊下があって、そのまた奥に、再び重厚な扉。 開くと、喫茶室。 店主が丁寧に出迎えてくれます。 店主とスタッフは、黒いゆったりとしたシャツを着用しています。 すっきりとした、清廉な空間。 必要なものだけが、あるべき場所に配されています。 白壁で、一切の装飾がありません。 白い塗色に残る刷毛跡は、意図して残されたものでしょう。 重厚で、奥行きがあるカウンター。 カウンターの向こうは、客側より一段低くなっています。 その高低差も、計算しつくされたものと感じます。 グラスに入った白湯が差し出されます。 メニューを拝見。 「無垢チョコレート」(200円)4種から、「かもがや」をチョイス。 これに合うブレンドコーヒーもお願いします。 「羚羊(かもしか)」(700円)とのことでした。 ブレンドコーヒーは、3種。 ブレンドの豆は、それぞれカウンター上に置かれた金・銀・銅の茶筒に入っています。 豆を木皿に取り出して、視認し、香りを検分。 電動のミルを回します。 ネルを布巾で叩き、ドリップ作業へ。 コーヒーをお客に差し出すまでの一連の所作。 無駄なく、淀みなく、繰り返されます。 繊細で、優雅。 茶道のお点前が、想起されます。 大倉陶園のカップ&ソーサー。 先日訪問した神田の老舗喫茶店「ショパン」も、大倉陶園でした。 カップを満たす「羚羊」は、深煎り。 芳醇な薫香、濃厚なコクと苦味を持つと案内されています。 すーっと喉を通り、余韻が広がります。 傍ら、金色の小皿に、さりげなくチョコレートが3片。 「かもがや」は、ナッツのような香ばしさと果実味とのご案内。 舌に載せ、口腔に挟み込むと、ゆっくりと溶けだします。 その移ろいを愉しみます。 3片あるチョコレートの合間に、コーヒー。 冷めていくとともに、コーヒーの味わいも変化していきます。 席を立ちます。 店主から、またしても丁寧なご挨拶。 レシートを渡され、1階での清算となります。 レシートは、くるりと丸めて、銀色の輪に嵌めてあります。 仮に、長年放置されたあばら屋があるとします。 朽ちるのを待つばかり。 そこに、茶人がひとりやってきます。 一輪の花卉を置きます。(花束であったとしたら、華美に過ぎまます) その瞬間、あばら家が茶室へと変容します。 ただ古いだけだったものが、おもむきを放ちます。 そんな場所です。