お世話になった方が引退されるので、御礼と壮行を兼ねてとっておきのお店で送り出そうとこちらに伺いました。六本木駅から徒歩5分、表に面して店名はどこにも出ていないので隠れ家的雰囲気があります。エントランスは奥に白木の扉があり町屋風な造り、洗練された和モダン様式が迎えてくれます。 引き戸を開けるとそこは上質な空気が流れる空間、ゆったりとしたカウンター席と6名の個室があります。今宵はカウンターで板長の捌きを拝見しながら楽しむこととしましょう。 こちらは お任せコース 24200円 のみとなり、あとはドリンクや追加アレンジなどを別途お願いすることになります。ドリンクはお料理に合わせたペアリングができるので、今回はドリンクもお任せでお願いすることにしました。 先付は天然真鯛の季節野菜の胡麻和えです。短冊状にした明石の真鯛を炒り立ての胡麻を使って和えたもの、柿をくり抜いた器で供されました。柿の器で数分休ませているらしく、ほのかな柿の甘さが鯛に移って目と舌で秋を感じます。椀ものは菊花蕪、海老真薯、生木耳、ばちこの清汁、器も見事ですが驚いたのが菊花蕪の細工の繊細さです。蕪は中に海老真薯が仕込まれていて表面は菊が彫ってあり、芸術品としか思えない一品でした。 お造りは大間産の鮪赤身と対馬産のノドグロでした。鮪にはタレが塗られているので花穂紫蘇を、ノドグロにはしっかり塩をしているので山葵をお好みでのせていただくのです。ノドグロの皮目は炙りなので香ばしさと身のねっとり感が素晴らしく、鮪は旨味が口の中に広がり舌触りは赤身としてはきめ細かく、包丁の入れ方が絶妙なのでした。焼き物は炭火焼きのサワラ、ふっくらと焼き上げたサワラに酢橘味噌を塗り、岩手の松茸をほぐしたものをのせて岐阜の栗を焼いてすり下ろす、秋の味覚全開の一品でした。 炊き合わせは海老芋、宿儺(すくな)南瓜、四方竹、大長茄子、銀杏、湯葉を銀餡仕立てにした口当たりも味わいも優しい一品、上品な出汁、とろける口当たり、これほどまでに秋の味覚を素材を一品ずつ丁寧に優しく仕上げられる芸術品のような炊き合わせに初めて出会いました。 続いて鱈白子のしゃぶしゃぶ仕立てです。器をガンガンに焼いて山榎木(えのき)、黒鮑茸、大黒占地(しめじ)、舞茸、椎茸の茸餡を入れ、グツグツ煮たっているところに白子を沈めるという見たことのない料理です。白子がふっくらと膨らみ、好みの熱の入りで餡とともに熱々をいただくのですが、この世のものとは思えないくらい美味しい‼︎ 次は小丼、中トロは荒く刻まれ、刻んだヤリイカを混ぜた酢飯の上にのっています。酢飯とイカが白いのでイカが混ざっているようには見えませんが、食べればちゃんとイカの主張があり、さらに自家製の輝キャビアをのせると紅白のコントラストに芽ネギの緑、キャビアのダークグレーで全体が一つの工芸品のようになるのです。今まで日本酒だったのが、この時だけ米焼酎になったのもキャビアとのマッチングのためですね‼︎ 肉料理は米沢牛の炭火焼きです。少し前から目の前で串が打たれた分厚いヒレ肉がじっくりと火入れされ、カットされます。断面が絹のような光沢と濃いピンク色のレアな仕上がりで、極上の肉と卓越した焼きの技術が伺えます。無花果ソースを塗ってこんもりと根室の雲丹がのせられて、その上に木の芽があしらわれたステーキは、とろける食感に強烈な肉の旨み、それを丸く納める無花果ソースと雲丹、さらに木の芽で爽やかさを残す余韻のあるものに仕上がっていました。 続く海鮮料理は牡丹海老のタタキです。タタキにした牡丹海老を3時間酒蒸しにした鮑を台座にして盛り付けて柚子の酸味が爽やかなジュレをかけてあり、トップに海老の卵をアクセントとして添えています。ボタンエビの淡い赤、金色のジュレ、卵の蒼色のメリハリのあるビジュアル、甘い海老のタタキがジュレの酸味で引き立ち、卵の食感とコクが素晴らしいハーモニーでした。 そしてシグネチャ的料理、130年のうなぎの蒲焼です。炭火でじっくりと焼いた鰻は130年のタレをまぶして仕上げられます。独特の歯応え、凝縮した味はまさに代表料理と思いました。合わせたのは130年にかけて120年の葡萄の樹で作ったワイン、ペアリングならでは楽しみ方です‼︎ 水菓子はさっばりと洋梨とシャインマスカットの盛り合わせとIMOパフェ、目の前で作ったべっこう飴のレース添えのシルクスイートを焼いて甘味を際立たせたアイスクリームはゴージャス感漂うスイーツでした。最後に黒豆茶をいただきながら素晴らしいひと時を終えました。 お酒と料理のペアリングは1名8000〜10000円くらいの予算を見ておくと良いでしょう。素晴らしい料理と器、それに合う飲み物、まさに大人のためのお店でした。いつか自分のために利用することを目指して頑張ります。