ちょっとしたお祝い事で、念願のこちらに予約して伺いました。常々自分の料理で参考にさせていただいている日高シェフのお店です。まだ日本ではアクアパッツァという料理が一般的でない時から店名に郷土料理のアクアパッツァを冠したのも、イタリア郷土料理への熱い想いがあったのかもしれません。 予約名を告げるとフルネームで確認され、コートを預かっていただきます。この呼吸の間は言葉では表わし難い絶妙のタイミングがありました。この時点で自分の中では期待度Maxとなり、興奮状態に突入です。 まずは最初のドリンクを選びます。全く予備知識がない状態で臨んだので、無難なスプマンテにしました。その後で本日のメニューが手渡され、料理を決めていくことになります。せっかくなので創業30周年特別コースをいただくことにしました。 前菜の前のアミューズはかぼちゃのスープとモッツァレラチーズの生ハムのせです。この取り合わせはあまり見ません。ぐい飲み風の器で供されたかぼちゃのポタージュにはシナモンが香り、カボチャの種で食感を楽しめる演出が憎い!! もう一品の吉田牧場のクリーミーなモッツァレラも素晴らしいのですが、のせてあるパルマ産生ハムが舌の上でとろけるようでまるで絹のよう!! これは出だしからノックアウトでした。 続いて冷菜は金目鯛のカルパッチョ、ソースはアサリを極限まで煮詰めた出汁にオリーブオイルと柚子を合わせたものでした。ねっとりした金目鯛がアサリの旨味でさらにグレードアップ、そこにほのかな柚子の香りで爽やかさを感じられる一皿は、組み合わせの妙とともにシェフの旨味へのこだわりがひしひしと伝わってきます。 温菜はホタテのフリットです。ベースに山芋のピュレ、その上に貝柱のフリットをのせてパルミジャーノレジャーノを散らした立体感のある盛り付けも素晴らしい!! ビールを加えた衣できめ細やかに仕上がった特大の貝柱のフリットは、サクッとした衣の中からのぞくふわっとした身がたまりません。添えられたシークワーサーを絞ると味全体が締まるのも計算しつくされていました。 ここからパスタが2品続きます。最初はお店が開発したバジルペーストを使ったもの、ペーストがバジルの風味をしっかり保っていて食べたことのない爽やかさでビックリ!! おそらくチーズや松の実の量とのバランスだと思いますが、バジルの苦みを出さずに鮮烈な風味を引き出しているのは驚愕です。もちろんその場でお土産に購入してしまいました。 2品目のパスタは牡蠣と牛蒡の自家製ビーゴリです。大きな牡蠣はふっくらとしてジューシー、牡蠣と牛蒡の相性の良さは日本の鍋でおなじみですが、それをモチモチのパスタで組み合わせており、 素揚げしたトレビスがほのかな苦みとパリパリ感で食感のアクセントになっていました。これこそシェフたちの料理への発想の凄さだと感じました。驚いたのはこのパスタのソースです。アサリや魚介出汁を使わず牡蠣のみのエキスでこんなにも濃厚なソースになるとは!! 最大限コクを引き出す手法、それに耐えうる素材、こういう料理に出会えることは、まさにレストランで食事する醍醐味ですね。 いよいよメイン1品目のアクアパッツァです。この日の魚は鰆でした。ふっくらと仕上がった身厚で脂ののった鰆の切り身、トマトとアサリと鰆の旨味が凝縮したスープ、もうワインをいただくのを忘れるほど美味しさです。 メインの2品目はエゾシカのロースト、付け合わせはサツマイモのピュレ、白菜の燻製です。素揚げした銀杏を散らし、スライスされたトスカーナ産黒トリュフがあしらわれている、見た目も香りも素晴らしい一品でした。レアで仕上げられたエゾシカは柔らかく臭みも皆無、もしかしたらビーフよりも食べやすいと感じました。イタリアでもジビエはよく食べるそうですが、このような臭みの全くないジビエは日本ならではなのかもしれませんね。 素晴らしいメインのあとはモンブランのデザートです。ねっとりとしたマロンクリームを惜しげもなく重ねてあり、栗の量はどれほど使ったのだろう?という質量の詰まったものでした。これに合わせたのがデザートワインです。私はヘーゼルナッツの香る修道僧が作り始めたといわれるリキュール、連れはナッツとフローラルの混じった華やかなリキュールで、どちらもモンブランとの相性が大変よく、しかも飲みやすい!! これは危険なお酒ですね。 最後はエスプレッソとリコッタチーズのアミューズとともに、素晴らしい料理の数々の旅を終えました。 こちらはデクパージュしなければならない料理がありホールスタッフの役割は大きいですが、技量、気配りとも大変すばらしく、キッチンとの連携もスムーズでタイミングも心地よいものでした。季節感のある料理を求めて、また訪ねたいお店です。