「重森三玲のお庭がお好きなら菰野の『ちそう』というお店に行かれると良いですよ。」 錦で器を売る「かたくち屋」の店主(着物姿が美しい)から購入した小皿をこちら東福寺の「市松の庭」のようですね、と評した際に添えられた言葉。 学生時代、アバンギャルドなアングラ演劇を志向していたのと同時に、何故か寺社の庭を見るのが好きで庭巡りをしていた僕が、重森三玲なる作庭家に出逢うのは必然でした。 庭は自然か芸術か…この問いに対して、庭を芸術と捉えた作庭家、重森三玲。グラフィックデザインのようなモダンな庭に、流れを生む石組と地割。東福寺の市松の庭、北斗七星の庭に限らず、松尾大社の曲水の庭、竜吟庵の無の庭、、驚嘆のセンスに時が経つのを忘れ、見入り、また当時、舞台美術の着想を得てきました。 気になりつつも約ふた月が流れ、今年で最後を迎えたソーシャルタワーマーケットで、ちそうの女将とまさかの出逢い。 まだ若い女将、僕がいつも眼鏡を買う女子店員さんとお友達なんだもん。ご縁って恐ろしい。これは、、必ず訪れねば。とようやく重い腰を上げ、秋の菰野路を旅することに。 お酒が呑みたい僕は女将と相談の上、電車で伺い、お昼のコースをいただくことにしました。 メインはお魚かお肉を選択できますが、最近お肉が続いていたのでお魚をお願いします。雨が降りませんように、とメールしたところ、雨のお庭もまた美しいので愉しみにお越し下さいとのお返事。 四日市で乗り換えて中菰野という無人駅に。生憎の細雨。そこから山の紅葉を眺めながら、田んぼや畑の点在する住宅街を地図を頼りに7-8分。 ちそうの看板のある松の門を潜り、長い石畳を歩いた先に、古民家の門。その先、中庭を抜けると御屋敷の引き戸。開けると柑橘の仄かな香りがする土間。 畳の玄関部屋には季節の香りを漂わせる香具が吊り下げてあり、下の水を張った器に静かに香水の雫が垂れる仕組み。 奥へ通されると大広間から前庭が全面にどどーんと拡がっています。わー、素晴らしい。静的なる庭に動きがある。華道のように風が波が流れている。なんてこった。三玲の庭を眺めながらご飯とお酒を頂ける幸せ。 まずは日本の白ワインをグラスで頂き、お料理がスタート。木の子のスープ柚子胡椒仕立て。こっくりしたスープは秋の幸せ。 雨だからこそ部屋もしっとり、苔が雨粒に光ります。美味しい。。。 続いて小皿の盛り合わせ。 里芋バジル、豆腐に穂紫蘇とエディブルフラワーを。原木しいたけには、ブルーチーズ。山芋にパクチーとナンプラー、バターで。近くで取れたての蕪はそのまま齧る。これはフルーツ?って程に瑞々しい。 あとね、豆腐に塩味をつける穂紫蘇、これだけでお酒が呑めます。 売って欲しい…。 日本酒、田光で。酒器がまた素晴らしい。 箸を休めて、庭を見て。再び美味い酒と料理に舌鼓。感性が喜ぶ豊かな時間。 裏庭はまた三玲の一つの顔であるモダンな 縞柄石庭。1896年生まれとは思えない、いや、永遠のモダンを体現するお庭。 瀧自慢にお酒を変え、皮目を炙った石垣鯛とルッコラのサラダを戴きます。この石垣鯛がまた絶品!ルッコラのサラダが日本酒に合うアレンジでこれまた絶品! 締めは雑穀米、おみをつけ、季節のお茶は、毎月茶屋さんに作っていただいているそう。 デザートはフルーツポンチを。 ゆっくり2時間かけて味わう至高の時間。 季節を変えて、また訪問を心に誓う、そんなお店。 なぜ、この地に三玲が作庭をしたのか? 横山さんというこの地でお医者様などをされていた実業家さんが、三玲に惚れ込みお願いしたんだとか。生涯で約200と言われる三玲の庭。なんと贅沢な。そしてちそうのご主人はご縁あってお借りすることが出来たんですと嬉しそうに語ります。 流れる世界の中でなにごともご縁に導かれている。そんな風に想い重ねる秋の菰野路でした。 あ、オトナ男子の皆様、こちらに大切な女性をお連れしたら、とても喜ばれると思いますよ。その際には是非、僕の大好きな作庭家・重森三玲さんについても少し勉強して下さいね。お庭や現代アートに興味がない方も彼の庭を観ると、きっと何かがココロに宿るはず。ぜひ! ※かたくち屋さんで買った市松の庭を思わせる小皿は、栗きんとん すや 本店のレビューにて写真を載せています。こちらも、是非!