色彩と味わいの美に浸る至福の京の宴 @代々木八幡 冬の味覚を楽しみに。お店へ向かう足取りはついつい速まる。 最上質の食材を繊細かつ美しく仕上げるための調理場の風景は思いの外、大胆で力強い。カウンター越しにその様子をかなりの範囲望むことができる京料理のお店は極少ないのではないか。 テキパキと働く弟子たちの前で腕を振るう大将との会話を楽しめるのも魅力の一つだ。 このお店に通わせてもらうようになって、4年が経つ。その巡る季節の変化も楽しいが、昨年の同じ季節との変化を確認するのもまた愉しい。 今年もまた去年より深くなった、美味を堪能した。 感謝。 [先付]ムカゴと新生姜のかき揚げ ビールのお供にと。ムカゴは栄養たっぷりの秋の食べ物。新生姜と合わせることで、土っぽさや酸味が薄れて旨味が際立っていた。 [前菜]秋鯖の棒寿司 首折れ鯖をギリ〆で。生で食べらるくらい新鮮な鯖を旨味を引き出すために最短の時間で〆たのだとか。透けるようなピンク。これほどの生感覚で鯖を楽しめる機会は少ない。 [お椀]川千鳥の腕【絶品】 スッポンだけでとった出汁は透明感あり、とても上品。ワイルドなスッポンを丁寧に調理された証。芽葱の緑と柚皮の黄が爽やかさを与えて綺麗だ。スッポンの肉は弾力性に富み旨味が深い。餅に出汁がよく絡んで美味し。ほのかに香る忍び生姜香りが京を感じさせた。 [向付け]鯛(明石)アオリイカ(長崎)縞鯵(和歌山) 銀杏の葉を模した器の曲線が優雅だ。色は上品な変化を持つ鬱金色だ。その器の中に三種の魚が慎ましく寄り添うように盛られていた。 [焼き物]松葉蟹(浜坂)【絶品】 最高級ブランドの松葉蟹。その証に浜坂の松竹丸のタグが付いている。焼いた脚は瑞々しくも濃い旨味。茹でたハサミの部分はボリューミーで身の繊維がしっかりした食感。解した身と蟹のミソを和えたものは芳醇でありながら新鮮なしなやかさが。そこにさっと酢橘を振って、絶品の珍味。 いけないいけない、お酒が進んでしまう。 [凌ぎ]江戸川春菊浸し 黒い器に深い緑の一色。春菊の味を引き出す上品な出汁。調味は酢橘だけだとか。だだ、ひたすらに春菊の美味さを楽しむ。爽やかな青味と苦味に酸味。そしてその食感は活きいきとしている。生命感を感じるポリシーの効いた一品。 [蒸し物]香箱蟹玉地蒸し 先程の春菊が「静」ならこの茶碗蒸しは明らかな「動」だ。内子の鮮やかな橙がビビッドだ。味の方も多彩で深い旨味。この連鎖攻撃で、味覚中枢が心地よく混乱する。 大将が雄雌の甲羅を見せてくれた。こんなに違うんだな。雄は脱皮の回数が多い分だけ大きく成長するらしい。 [揚げ物]江戸前太刀魚 煮おろし 出た、和製京風のトリック。感じすぎだろうか。色彩豊かな皿に鎮座するオレンジの切り身。サーモンだと思わせて、実は太刀魚なのだ。実に肉厚。ハラスの美味さと上品さはサーモンもはるかに及ばないだろう。衣の香ばしさとおろしの清涼感。三次元の旨味を感じる。 [煮物]京蕪と雲子 繊細な白とクリームの色合いに見惚れてしまう。鱈の白子は艶のある食感と上品なコク。そして、鯛の骨でとった出汁を品よく吸った蕪は円やか。それらを三河みりんでキリッとした仕上げられた白味噌の出汁に絡めて頂く。ジワッと身体の内側から美味と温もりが染みる。 [スペシャリテ]京都の海老芋 絶妙の加減で炊かれた海老芋をスライス。この厚みが絶妙だったモコモコせずに出汁の美味さと芋の旨味を口の中に広げることができる。アクセントのふり柚子が効いていた。 [食事] ・丹波栗ご飯 丹波の栗はその風土や気候の特徴から最上質と言われる。なるほど、ムラのない深い甘み。こんなに美味い栗ご飯は他にない。ハズ。 ・仙台牛と九条葱すき焼きごはん 大きな一枚の仙台牛でご飯が見えない。しなやかで柔らかな食感、肉の旨味はとても深い。そこに九条葱の甘苦感が加わり贅沢なすき焼きご飯に。 ・玉子かけご飯 ・赤出汁、胡瓜の古漬け [水菓子]石和の柿 長野のシャインマスカット