Hideaki Ishizuki

Hideaki IshizukiさんのMy best 2024

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神奈川県

焼き鳥

Hideaki Ishizuki

私は酒が飲めない。 それを残念と思ったことはないけれど、料理がもっとうまく感じられるんだろうなとか、酔えたら女の子を口説けたかもとか、おでんとか焼き鳥は下戸は一人で行けないとか。 下戸でも誘ってもらえることが、心の底からありがたい。 同僚と大船駅東口で焼き鳥。焼き鳥屋でジャズはよくある。ビル・エヴァンス。ワルツ・フォー・デビー。 ボーカルの曲に変わる。ん?これは?すごいカッコいいオールディーズ。 見ると、カウンターのなか、一升瓶が並べられた前に、アナログ盤ジャケットが立てかけてある。見たことがないアフロヘアの黒人女性シンガー(って、いまどきこんな呼称でいいのだろうか)のモノクロのジャケット。かなりボロボロといっていい。横を見るとターンテーブルがあった。 「大将、いまかかってる曲、このジャケットの人ですか?」 「え?あ、はい、そうです」 「めっちゃカッコいいですね」 「いいですか!マリーナ・ショウです。私、もうすごい好きで。これオリジナル盤なんです。70年代の。マリーナ、1月19日に亡くなったんですよ」 Marlena Shaw Who is this bitch, anyway?(1975) 「さっきまでジャズだったでしょ。いい飲み屋さんでジャズはよくあるよなーって思ってたけど、ボーカルに変わったから、お?って。知らなかったけど、すごいカッコいいなって」 「ジャズも好きですか?」 「ビル・エヴァンスのピアノは大好きです。みんな好きですよね」 「このワルツ・フォー・デビー、再プレス盤なんですけど、18のころかな、学芸大(学前)で見つけて」 パープルカラーのアナログ盤だ。 「毎日、仕込みで聞くんですよ。時々、泣いちゃうんです。雨の日とか、気持ちなのかなあ、あるんです、そういうときが」 「へぇー、その時々で、込み上げてくる」 「レコード(ジャケット)を飾ってたりしてるのを見ると、なんかなあって。焼き鳥屋がベタベタの手でレコードを触ってとか言う人もいるけど」 「レコードはかけなきゃ意味がないんですよ」 握手する。 「俺、酒飲めないし、ましてや大将と話をするとか、しないんですよ。でも、あ、いい曲だな、と思って、ジャケット見て、思わず聞いちゃって」 「それは、マリーナのチカラだと思うんですよ、絶対」 「いいこと言うなあー」 誘ってもらえたから、こういうことが起こる。ほんとにありがたい。感謝しかない。