それは、衝撃的な出逢いであった。 大阪出張の折、往きと同じく帰りも新大阪駅でランチの時間となる。またもや「なんでもあるで」とアルデ新大阪をウロウロ。視界を「赤白」という看板がかすった。確か大阪の友人に聞いた「フレンチおでん」の店じゃないかな?と思い、遠目に覗うと、カウンターバーのような僅か10席余りの小さなスペース。中では女性ばかり数人が、昼間からワイングラスを片手に談笑している。 男一人、入りにくいことこの上ないが、ままよと突入した。 メニューを見ながら、暫しキッチンの女性(皆女性!)とお話。「赤白」と書いて「こうはく」と読むらしい。2015年ころから梅田周辺に3店舗を展開し、新大阪駅のこの小店が一番新しいのだと。どの店も時間帯によっては行列ができる人気店のようだ。 初めてなので、女性店員に言われるがままオーダー。客は皆ワインを呑んでいるので仕方なく(笑)注文。 これが、衝撃の正体。人気一番メニューの「大根のポルチーニ茸ソース」。 皿が出された瞬間から、ポルチーニの濃厚で色っぽい香りが鼻をくすぐる。思わず、ああっ!と口走り、心臓の鼓動が速まる。そして鼻をぎりぎりまで皿に近づけ、馨しい香りを胸いっぱい吸い込む。スプーンを入れると、飴色の大根の断面が美しい。おいしい料理は、決まって姿かたちも美しいのだ。 大根はコンソメで柔らかく炊かれ、それがポルチーニソースの衣を纏って得も言われぬ風味を醸し出す。なんと幸せな時間だろう。 冷静に考えてみると、「本歌」はおでんの大根。あるいは柚子味噌のかかったふろふき大根だろう。しかし、このコンソメとポルチーニという発想は素晴らしい。そのアイデアによって未知の世界に招かれた我々は幸せ者だ。 味・香りに気を取られて書くのを忘れた。価格は一皿180円なのである。これにも驚愕するしかない。 人気二番メニューの「フォアグラの茶碗蒸し」。一番人気の「大根のポルチーニソース」があまりに強烈なので、損をしているかもしれないが、こちらも傑作だろう。ベースは茶碗蒸しだが、上にフォアグラと茸を刻んだ餡がかかっている。フォアグラの香りは言うに及ばないが、茸の食感も私を虜にする。380円もお値打ち。 「赤白」は上記の定番メニューは共通だが、店舗によってメイン料理のメニューに変化を持たせているようだ。例えば肉料理、鉄板焼きなどなどで、ここ新大阪店のメインはフレンチ焼き串。10種類以上の中で、鶏ももとウズラのフレンチ古典ソースをチョイス。鶏肉は歯ごたえ良く、噛みしめると旨味が滲みでる。素材を厳選しているのがわかる。ウズラは桜材でスモークしている。ソースも複雑な風味で、すべてに手抜きがないのだ。 そしてワイン。おススメで10年熟成のシャンパーニュをいただいた。アッシュブランミレジメ2008年をグラスで780円とお手頃。 酒の弱い私としては、昼呑みですっかり心地よくなり夢の世界へ(笑)。 纏めてみると、お料理は抜群でCPも高い。お酒もお手頃。大阪の人は幸せだ。 ぜひ、ほかの店舗にも出かけてみたいものだ。できれば何人(女性)かで。
大阪新町の創作中華 空心を訪ねた。二回目の訪問である。 初回もアイデアの多様さに感心したが、今回もますますその思いを強くした。ひとえに大澤シェフの独創力のなせる業であろう。 コースもあるが、今回はアラカルトをたのむ。 まず、前菜の盛り合わせ。前菜といってもこのボリューム。左上の水たこ爽やか花山椒あえ、右上のよだれ鶏は定評ある不動のメニューで。左下はカツオのピータン&おこげソース。右下は千切りにした海月とサーモンに雪菜の佃煮?トッピング。いずれも、食感と素材のハーモニーが素晴らしく、既に前菜だけで満足してしまう。 有頭エビの濃厚チリソース煮込み。ありふれたチリソースではなく、辛さを抑えながらとても濃厚なソースのパンチを味わう逸品。瞬間的にチーズのコクを感じたが、それではなく炒めた玉ねぎがベースになっているらしい。中華の花巻(蒸しパン)につけて食べたら最高だろうなと想像力を掻き立てられる。 特別メニューの金鶏。メニューには金鶏としか書かれてないが、見栄えも食感も北京ダックと同じ調理法のようだ。茨城産と聞いたので龍崗鶏やもしれぬ。外皮のパリパリ感と弾力ある鶏肉の対比の妙がある。 シグネチャーの一つ「叉焼メロンパン濃厚卵黄とトリュフ」。卵黄とトリュフの組み合わせは、食通にはよく知られていて、エロチックな旨味と香りに思わず唾を飲み込むほどだ。メロンパンのあんこにはジューシーな叉焼が鎮座していて、卵黄トリュフとともに食べるハーモニーがなんとも素晴らしい。 〆はメニューで凄く気を引いた「サンマXO醤 蓮の粽 すだち酸辣油」。秋刀魚の粽なんて、考えただけでも生臭さが漂う。ところが、である。生臭さは微塵も感じられず、秋刀魚の脂味が粽の米粒をしっとりとコーティングして美味しいことこの上ないのだ。そして特筆すべきは大根おろしをベースにして酢橘をキリリと効かせた酸辣湯。大澤シェフに「大根おろしは焼き秋刀魚からの発想ですか」と恐る恐る尋ねてみた。シェフは「その通り。これは中華風サンマ定食なんだ」と喝破する。秋刀魚、大根おろし、酢橘とくれば確かにサンマ定食そのものである。まことに、こうしたユニークで愉快な創作力は大澤シェフの真骨頂なのだ。 折からアルザスワイン特集をやっていて、普段は飲む機会の少ないアルザスをいただく絶好の機会である。 大好きなクラシックの指揮者に上岡俊之(新日本フィル音楽監督)がいるが、彼はユニークな指揮を自ら「変態」とのたまう。中華料理界では、大澤シェフこそ天才的な変態料理人だといえるのではないか。