「あぁ、もう東京か…」
目覚めると、車窓から副都心の高層ビル群が彼方に見えていました。
どうやら名古屋辺りからすっかり眠り込んでしまったらしい…。
「今日、パレードあるから見てったらいいよ。こっからだと特等席で見物できるよ」
ぼんやりした頭で、二十数年前、銀座の得意先のビルの2階から銀座パレードを見物させてもらったことを思い出しました。
いや、正確に言うと思い出したのは一緒に見て仲良くなった二人の若い女性スタッフたちのこと。
「大阪に遊び行きたい」という彼女らの要望を安請け合いし、後に大阪の街を案内することになったまでは良かったのですが、当時、女性に初心だった小生に二人の女性の相手をするのは荷が重いと思い、スチャラカ社員の同僚Oに助っ人として参加してもらうことにしました。
「Takamura、これはイケんぞ!」
「何がや?お前、同棲してる彼女いてるやろ?」
「野暮なこというな!俺はやるときはやる男や!」
「いやいや、そんな軽い感じの女の子らちゃうで…」
剥き出しの性欲を隠そうともしないOに、人選を間違えたと頭を抱えても時すでに遅し…。
Oは獲物を捕らえる肉食獣のように目を輝かせやる気満々でしたが、結局のところ道頓堀周辺を案内し、ご飯をご馳走した後、何故か箕面にサルを見に案内しただけ。ギャグが滑って空回りするOを横目に、小生は途切れがちになる会話を埋めることに精一杯で、新大阪まで送迎した後どっと疲れたことだけはよく覚えています。当時、小生もOも20代前半のことでした。
(若かったなぁ…あの女の子らもすっかり“おばちゃん”になってこの東京のどっかで暮らしてるんだろうか…)
東京駅に着くと、そんなほろ苦い思い出を頭から追い払い、まっすぐ向かったのは『ソラノイロ』というラーメン店。
東京駅ラーメンストリートにあるこのお店のことは時折Rettyの投稿で目にしており、この不思議なネーミングに東京資本の店のセンスの高さと魅力を感じていました。
名前をイメージしたコバルトブルーを基本色に配した店の配色も斬新。ラーメン屋が寒色系の色を使うというのは基本タブーで、スープが寒々しく感じられることに加え、この世に存在する食べ物で青色の食材は毒を持つものが多く、客足が遠のいてしまうという話を聞いたことがありますが、そのタブーを敢えて犯しているところがまたカッコいい…。
店の壁面の大きなポイント・オブ・パーチェイスには「ミシュランガイド東京に3年連続掲載されました!」との文字が躍り、「特製中華蕎」と「特製ベジソバ」(各1,100円)が大きく掲げられ、その二つのが看板メニューなのがうかがえます。
「どうだこのミシュランの紋所が目に入るぬかー!一同図が高い!控えおろー!」
「はっ、はは~~っ」
“ミシュラン”という言葉にひれ伏すような性分ではありませんが、まったく気にしないと言ったら嘘になります。
時間は13時を少し回った頃、3人が未だ並んでおり、そのうち二人はトルコ人とらしき外国人カップルで店頭の自販機の前で立ち往生、即座に店のスタッフが英語メニューを持ってきて対応します。店内にも何組か外国人らの姿が見え、こういう対処にもすっかり慣れているよう。
小生は、「煮干しラーメン」を頼もうと思いましたが、生憎“売切”。「ベジソバ」はこのときのお腹具合ではちょっとヘビーだったためスルスルっと胃袋に流し込めそうな「特製中華そば」を選択。1,100円という価格設定に東京の物価の高さと店の自信がうかがえます。
ほどなく壁際の席に案内され、卓球の一人壁打ちしているような気持ちになりながら運ばれてきた特製中華そばを頂くと、ソフィスティケートされた中華そばの旨味が口の中で広がりっていきました。
悲しいかな食材や調理の知識に乏しいので、その味や具材、調理法を的確に表現するだけの言葉を持ち合わせていませんが、麺・スープ・薬味の全てにおいて吟味された食材を丁寧な調理の元に仕上げられていることが嫌という程伝わってきました。
やっていることはまったく違いますが、小生も仕事でチラシや販促物などを作製したりします。出来上がったものを見ると何てことないものに見えますが、そこに至るまで何度も何度も試行錯誤を繰り返し、ようやく完成にこぎつけることが出来ます。
このラーメンもこの味を出すために100通り、1000通りの試行錯誤があったに違いない…。しかも、開発者(=店主?)はかなりの完全主義者ということも容易に想像できました。
非の打ち所のない完璧なラーメンでした。
でも、敢えてあら捜しをするとすれば…完璧過ぎる、美しくまとまり過ぎているというところでしょうか。
東京のラーメンは一昔前のとはまるで別次元に進化しているとTakaaki さんは語っていましたが、二十数年前