Masayo Morishita

Masayo Morishitaさんの My best 2015

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神奈川県

寿司

Masayo Morishita

「僕らは食欲だけで繋がっている。逗子・立ち食い寿司処 いなせの巻」 「あっつ、つ、暑うてかなわんなぁ。連休前からこの陽射しは、いったいなんやねん」 「今からそんな弱音吐いてたら、真夏にウインドなんか出来やしないぜ」 アラフォーのIT経営者の男2人は、初夏の午後、JR逗子駅に降り立った。 小石川吾朗はパナマの帽子にフレンチリネンの上着、黒のストレートデニムで、男扇子をあおいでいる。 佐原利彦は、ぶかぶかのTシャツにダボッとしたショートパンツ、キャップを被り、足元はバッシュだ。 佐原が急にウインド(サーフィン)をやりたいと言い出し、それなら吾朗の知人がサーフショップをやっている逗子に行こうという話になったのだ。 「逗子は空いとるなぁ」 「鎌倉みたいに観光観光してないからな。地元の人しかいない感じが、いいよな」 「腹へったなぁ。朝から何も食べてないねん。何処ぞの居酒屋で一杯やってから行こうやないか」 「今から飲んだら海岸に行けなくなってしまうぜ」 「そやかて、こう腹がへっていては、そもそもたどり着けへんわ」 「立ち食い寿司屋が駅近くにあるみたいだよ」 お店は、逗子と新逗子駅の中間くらいのバス通り沿いにある。ガラガラと引き戸を開けると、板場には大将が1人、カウンターは最大で5人程度の小さな店である。メニューは黒板に書いてあるだけだ。立ち食い寿司というよりは、立ち食い割烹というタイプの店である。 先客の中年夫婦が貝のお造りを肴に、日本酒を飲んでいる。 「沖縄の酒ばっかりやなぁ」 「一品料理も島らっきょとかゴーヤのサラダとかだな」 「私の出身がいぜな島って、沖縄の離島なんですよ」 白のソフト帽を無造作に酒瓶に引っ掛けた大将は、意外に話し好きのようである。 「とりあえずビール、それとお造りを」 お造りが出来るまでの間、ブリの肝の煮付けを肴にビールを飲んだ。 「暑いとビールが美味くなるなぁ」 「今日は彼女、どないしてるんや」 「親戚の結婚式に出てる」 「言うことは言えたんか?」 吾朗と文代は、みなとみらいの橋の上にいた。 「なあ、文代・・・」と言いかけた次の瞬間、吾朗は橋の上で転んだ。というか、前のめりに倒れた。 「いたたた・・・」 膝を強打したらしい。吾朗は膝を抱えて蹲ってしまった。 5分くらいたって、少し痛みが和らいだので目を開けた。目の前に、文代の心配そうな顔が見えた時、吾朗は笑いが止まらなくなった。 (そうだったんだ・・・) 「どうしたのよ」 「あは、ははは・・文代、じゃない、文代さん。 俺はやっと分かったんだ。今まで俺が1人で生きて来た意味が。それは、文代さん。貴女に会うためだったのです」 「ふぅん・・・」 きんめ、まぐろ、ぶり、こはだ、えび、花 の豪華なお造りを食べながら佐原はビールを一口飲んだ。ここは、醤油の代わりに塩とワサビで食べさせる。塩も沖縄の天塩ということだ。 「変わってるけど、まあプロポーズとしては上出来やないか」 「プロポーズ?」 「夏目漱石の「それから」みたいやな。僕の人生には貴女が必要だ。だったかな」 2人は大将の出身地の泡盛「いぜな島」をロックで飲んだ。沖縄の透明な海を思わせる、深い味わいの泡盛である。 「新鮮で肉厚な刺身やな。ちょいとご飯が食べたくなったわ。いなせ巻を下さい、それと〆鯖」 「プロポーズってほどのつもりじゃなかったんだよ」 いなせ巻には、鮪と島らっきょの茎が巻かれている。 「ただ文代とはちゃんと、真面目に付き合おうっていう意味だったんだ」 「〆鯖も上品に締まってるわなぁ。いかにも逗子って感じや・・・お前、そんな甘いこと言ってたらまた麻里リンの二の舞になるで」 続く

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神奈川県

パスタ

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「僕らは食欲だけで繋がっている。野毛・麺房亭/春雷亭」 「いやー、参ったわー、夏場を前に急いで引っ越しするいう事情はわかるねんけど、なんやねん、あの荷物は。独身貴族いうけど、お前モノ買いすぎやねん」 165センチ80キロの佐原は、汗とホコリ塗れの顔を小石川五朗に向けて、口を尖らせた。 「すまんすまん。文代にも何回も言われたし。もう余計なモノは買わんよ。」 「それにしても、文代ちゃんの実家はでかくていい家やなぁ。あすこに1人で住んでるのは確かにもったいないわぁ」 「私も用心棒が来てくれるとありがたいです」 「俺は用心棒か!」 「ヒョロヒョロしとるけど一応男やしな」 小石川五朗は、この週末、文代が一人で暮らしている横浜の家に急きょ、引っ越すことにしたのである。 忙しかったので、佐原がちょこまかと動き、五朗はワインセラーの整理をしたくらいであった。 3人は、ドゥーカというスパークリングワインのボトルを頼み、引っ越し祝いの乾杯をした。 「この店、タライさんの紹介やねん。全て手作りなんやて」 「1番人気の熟成生ハムと、2番人気の自家製チーズの盛り合わせ、パスタは短角牛のラグー にハンバーグステーキをタヤリン(細打ちパスタ)に載せて」 「文代ちゃん、頼みっぷりも食べっぷりもええし、ほんまにええ女やなぁ、惚れてまうわ」 「おい、お前は3人の子持ちだろうが!」 「あのクッソ多い荷物に嫌な顔もせんと、黙って荷ほどきする姿見て惚れん男はおらんわ」 「いいから、生ハムとリエットを食えよ、絶妙なバランスだぜ」 「幸せサラダって、素敵なネーミングね。スチームされた野菜も新鮮だし、バルサミコ酢をかけたこのチーズがまた良く合うわね」 「野毛にまた行きつけが出来たなぁ。分厚いハンバーグにラグー、なんつう贅沢なコンビやねん。タヤリン言う細打ちパスタも、舌触りもコシもあってモチモチや。これマジでパスタの最高店かもしれん。いろいろ凄い店やなぁ」 「飲み過ぎて入らないのが残念だけど、レモンパスタも惹かれるわねぇ」 「全体にイタリアンなんやけど、焼酎や日本酒を置いてるのもユニークやなぁ」 「んで、アレは片付いたんやろうな?」 ひとしきり飲んで食べた後、文代が化粧室に立ったのを見て、佐原は五朗に聞いた。 「うん、まぁな・・・」 ベイ・ブルーイング・ヨコハマで飲んでいた文代と五朗。 「あら、五朗じゃない!」 (やばい・・・) と思った瞬間、ミニスカートにチューブトップの水田麻里が、モンロー・ウォークで近づいて来た。だいぶ酒が入っているらしい。 麻里は吾朗の腕を取って、Aカップの胸を押し付け、 「あぁら、可愛らしいお嬢様。吾朗の新しい彼女?紹介してくれない?」 頰を擦り寄せ、つけまつ毛とアイラインで縁取られた目で、文代を挑むように見つめた。 「やめろよ、みんな見てるぞ」 「あら、冷たいのね、僕の初めてを捧げた元彼女に対して」 「そういう下品な言い方やめろよ」 「初めまして。吾朗さんの友達の服部文代です」文代は静かな声で挨拶をした。 「初めまして。麻里です。さっきも言ったけど、吾朗の元彼女。だけど最近、復活したのよねぇ」 「おい、いい加減にしろよ!」 「五月の連休明けから、連絡取れなかったでしょ?吾朗はほぼ毎晩、あたしと過ごしてたのよ」 「・・・」 「あらら?驚いて声も出なくなっちゃったのかしら?」 「別に。貴方と吾朗さんのことは、私には何の関係も無いことですから」 「なんかひねくれた子ねぇ。自分の彼氏が、元カノとヨリを戻したのよ。泣いたり騒いだりするのが普通じゃない?」 「いえ。そういう趣味ありませんから。それより貴方は、何がしたいんですか?吾朗さんとヨリを戻したから、近づくなってことですか?」 「別にいい〜、そんなぁ・・ねぇ〜?」 「俺はヨリ戻したつもりは無いぞ。だいたいお前が、酔っ払って押しかけて来るから泊めてやってただけじゃないか」 「あぁら、宿泊代はちゃんと払ったわよ、カラダで・・五朗だって楽しんでたじゃない・・ウフフ」 「わかりました。お二人の邪魔する気はありませんから。もう帰ります。さよなら」 文代は、静かに、食事代をテーブルに置いて店を出ようとした。 「あら帰っちゃうの〜新彼女さん。お達者で〜」 「離せよ、おい!ベタベタ触るな。ここはアメリカじゃないんだ」 「どこがいいのよ、あんなの。ただ胸があるだけ。チビのブスじゃないの」 「お前に聞きたいことがある。旦那のDVってのは嘘なのか?本当はお前が遊びまくって実家に返されたってんじゃないか?」 「だ、誰がそんな話・・・」 「答えろ!」 「うっさいわねぇ。ハイハイ。そうですよぉ。あんなつまんないおっさんの相手なんか、すぐに飽きちゃったわ。外国に行ったからって、華やかなことも特にないし。だから彼氏を作ったのよ」続く

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神奈川県

ホルモン

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「僕らは食欲だけで繋がっている」野毛ホルモンセンター篇 大変ご無沙汰しております。小石川吾朗・文代夫妻の食べ歩きで綴る連載です。 <今までのお話> 吾朗は、西島秀俊似の顔と細マッチョが自慢なIT経営者。大学時代に付き合っていた麻里に始まり、突き合った女は数知れず。「誰かと結婚して縛られたくない」男でした。 文代は、顔は普通でFカップの巨乳が特徴。結婚に破れ、一人息子を取り上げられ、孤独に彷徨っていました。 二人は月島・魚仁で出会います。吾朗は文代の不思議な能力に惹かれ、彼女との結婚に踏み切ります。 二人が横浜で同居を始めて数ヶ月が経過しました。 「ウーン今日もうまいっ!野毛ホルモン、新鮮、最高ー!」 「吾朗さん、そんな大声で・・・ほら焼けたから早く食べなよ」 二人は煙がもうもう立ち上るコンロを前に、ハイボールで乾杯した。 「今日は日曜日だから、思ったより早く入れたなぁ」 ペラペラ焼きを食べながら、吾朗は店内を見渡した。 「すいませーん、ピリ辛もやし。それとミックス」 「にんにくももらおうかな」 ミックスには、ホッペ・シマチヨウ・豚タン・セセリ・牛ハツ・シロコロ・豚カシラ・・・なとがおまかせで入っていて、何が出るかはお店しだい。何の部位かなと、焼きながら当てるのも楽しい。 焼きながら、ハイボールがどんどん進んでいく。 「16時のオープンから19時までハイボール¥50て言うのが凄いな」 「つい飲み過ぎちゃうのよねー」 「今日は二人が出会った記念日だから何処か小洒落た店に行っても良かったんだけど」 「やっぱりわれわれに似合うのは野毛ホルモンでしよ笑」 「小洒落たビストロなんかも野毛にはあるから、また今度行ってみるか」 肉が無くなったので、極みホルモン、牛ハラミ、上ミノ 塩などをオーダーした。 ここまででハイボールは各二杯、なんと¥200である。 「安すぎるよなあ」 「ほんとね。ここ2回目だっけ?」 「オレは友達連れて4回くらい来てるな。みんなうまいうまいって飲んで食べて満足してくれるよ」 「煙がすごいから、メガネ持参よねー」 文代はパソコンを使う時のメガネをかけて「メガネ女子」になっている。 「あまり出さなくなったレバーも出してくれるのよねー」 「生がうまいんだけど、しっかり焼いてくださいねって言われるからなぁ」 三杯目のハイボールを飲みながら、吾朗は思い切って言った。 「文代、オレは文代と暮らしていて、ほんとに幸せだ」 「何よ、いきなり」 「文代が傷ついた記憶をほじくり返すようで悪いと思うんだけど・・・」 文代はメガハイボール¥90のジョッキをカウンターに置いた。 「オレは、オレは・・・やっぱり、文代との子どもが欲しい」 一気に言って、吾朗はハッとした。文代の目から涙が零れている。 つづく *本日のお会計 合計で¥6500なり

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「僕らは食欲だけて繋がっている」池袋「立喰 美登里 エチカ池袋店」 <お久しぶりの投稿です。留守の間もフォロー・いいね!ありがとうございました!これからも小石川夫妻をよろしくお願いします。> 小石川五朗・文代夫妻と友人の佐原は、大井町のバル肉寿司で飲んでいた。 「お前に聞きたいことがある」 「何や、改まって」 「お前に取って、家族ってなんだ?子どもって、なんだ?」 「ハァ、こらまたエラい重いテーマを持ってきたなぁ」 「ふざけないで答えてくれよ」 「そやなぁ、かみさんは空気、子どもらは命ってとこやないかな」 「かみさんが随分と軽いんだな」 「馬鹿を言うな。空気が無ければ死んじまう。一番大切なもんやないか」 「空気と、命か・・・」 「世の中の男はみんなそういうもんやないか、お前にとってもそうやろ?文代ちゃんは」 「・・・」 文代が戻って来たので、五朗は口をつぐんだ。 八月半ばの土曜日、小石川文代は、池袋駅で此花咲耶(このはなさくや)と待ち合わせしていた。 俳優・赤木信輔(実在の俳優)の芝居「わたしの・領分」を見にいくのである。(参考: http://blog.akagishinsuke.com/) ともに、道迷いの二人だが、なぜかこの日は待ち合わせ場所でビシッと出会った。 「咲耶さん、お久しぶりです!」 「久しぶりねえ、文代さん。なんか一段とツヤツヤしているわねぇ」 「太ったって言いたいんでしょ」 「そうよ、幸せ太りでしょ」 咲耶は、最近、発達障がいを持つ子どもの療育センターに、ボランティアとして勤め始めたのである。 かねてよりファンの赤木信輔が、自閉症の療育センターを舞台にした芝居に医師役で出るというので、二人は誘い合って出てきたのである。 芝居は19時からと遅いので、先にご飯を食べて行こうという話になった。 「池袋のエチカに、あの「美登利」の立ち喰い寿司があると聞いて、前から行きたかったんですよ」 「私、立ち喰い寿司って初めてよ。楽しみだわ」 エチカに入ってすぐの場所に、美登利はある。 カウンターに、テーブルが二ツの小さな店だが、客がひきもきらない。 二人は奥のテーブルに案内された。 「トロサーモン、いけたこ、えんがわ、漬けまぐろ、いわし。あん肝ポン酢もください」 「オーダーは自分で紙に書くのね、面白いわ」 「うわっ、すごい、豪華ですねぇ。立ち喰い寿司には結構行くけど、こんなネタが分厚くてちゃんとお寿司の所は初めてだわぁ」 「梅ヶ丘の美登利には行ったことあるけど、これなら立ち喰いでも全く変わらないわねぇ、・・・五朗さんとの新婚生活はいかが?」 「引っ越した当初は、やたら荷物が多くて落ち着かなかったけど、最近はペースをつかんで来たかな」 「ふぅん、まあ五朗さんはどっかお子ちゃまなところがあるもんね、あなたがリードしていく感じかしらねぇ」 「それが、結構、お掃除はするし、お洗濯も出来るし、料理もやってくれるんで、楽なんですよ。私は飲んでるだけ」 「あら、意外ねぇ。でも今度こそ幸せになってね。これまで大変だった分も合わせてね」 「本当、ありがたいことですよ。・・・みる貝、ボタン海老、はも、それとあら汁をください」 「なんか、お腹いっぱいになりましたねぇ」 「ホント、これだけ食べて一人¥1500行かないんですものね、流行るはずだわ」 「五朗さんにも教えてあげなくっちゃ」 「羨ましいわねぇ。うちなんか、メシ風呂寝るの、典型ですもの・・・」 「でもね、なんだか気になることも・・・」 続く

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東京都

カレー

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2015年の仕事納め、小石川文代のOLひとりランチは、大阪で五十店舗を展開する上等カレー渋谷本店で締めとなります。 トンカツカレーにナスのトッピング(¥1、030)を頼んだ文代からのメッセージです。 「みなさま、今年もお世話になりました。最近、途切れ途切れの投稿で何がなんだかわからないと思うのですが、とりあえず、小石川夫妻は、二度目の冬に突入しました。 私はかつて自分の産んだ子を、義理の実家に取られて、追い出された体験をしたと言うのに、吾朗さんは私との子が欲しいと言い出して・・・ どうしたらいいのかわからないまま、二人はとりあえず、何でもない顔をして毎日を過ごしています。 小石川夫妻の未来はどうなるのでしょうか? 吾朗の望む結果は得られるのか? 佐原のサーフィンはどうなった? アメリカに戻った麻理リンの逆襲は? まぁ、そんないろいろとは関係なく、ここのカレーは野菜と果物をふんだんに煮込んで、甘いけど辛い、深い味わいを楽しむことができます。 揚げたてのトンカツを一枚、カットして載せてくれる心遣いも嬉しい。 私は卓上のキャベツのピクルスがお気に入りで、お代わり3回はするので、吾朗さんに呆れられることも。 でも、美味しいんだから仕方ありませんよね。 そして、私が食べている間も、お客さんがひっきりなしに入店していらっしゃいます。 これが、繁盛店の実力ですね。 それとも、私の力でしょうか・・・? ウフフフフ・・・」 文代さんはこのように申して、渋谷の街に消えて行きました。 彼らの未来に、ミラクルが起こるのでしょうか・・・? 未来は誰にもわかりません。ただ食べることで、命は確実に明日につながれていきます。 さあ、素晴らしい年を、美味しい料理、愛する人と一緒に迎えましょう。 どうぞ、良いお年をお迎えください。 森下唯

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東京都

そば(蕎麦)

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森下のOL一人飯セレクション・頂上決定戦「田町・アラ麓屋」 田町、わが宿敵(またの名を元旦那という)との最終決戦の地。 二度と来ないと誓った筈なのに、いかなる運命か、わが勤務先は、ここを本拠地に定めたのである。 ・・・何故だ‼︎ と吠えていても仕方がない。 早速一人飯のターゲットを絞り決めたのが、ここ、アラ麓屋さん。 もとフレンチのシェフがマスターで、作るのは蕎麦、しかも券売機で食券を買わせる、立ち食い系⁈ がぜん面白くなって来た。来るのも嫌だったKO仲通り。 小さな立ち食い系の蕎麦屋はその入り口近くにあった。 ここは皆さんおススメのコテリ(冷)でしょ。¥720なり。赤ワイン¥300だって。もちろんオーダーしますわよ。 本日の丼は唐揚げ丼¥250だったが、お腹いっぱいになってしまうのを警戒して(寝てしまうから)今日は蕎麦オンリー。 コテリ。煮卵、チャーシュー、揚げ玉、ネギがトッピングされたコテリとは言いながら、あっさりした見た目である。 赤ワインをチビチビやりながらコテリさーんと名前を呼ばれるのを待つ。 蕎麦は細いがコシがある。ダシとのバランスが良い。揚げ玉やネギと絡ませて食べる。美味い。赤ワインを一口。 チャーシューをひと切れ。旨い。赤ワインを一口。 途中でワサビを投入して蕎麦を啜る。このワサビ、辛すぎずナイスに蕎麦の味を変えてくれる。また赤ワインを一口。 蕎麦とワインのマリアージュなんて聞いたことありますか? あるところにはあるのである。最後に煮卵を一つずつ、ゆっくりと、ダシに絡め、残ったニンニクチップも全部頂いて、至福の一人飯は完成。 おそらく一人飯蕎麦部門の最高峰。 帰りに「富士そ◯」の前を通った。混んでいた。が、私はここにはもう入れない。アラ麓屋を知ってしまった今では。 ちなみに蕎麦だけだとやはりなんか食べたいという気になってしまうかも。やはり本日の丼を併せて注文するべきだった。でも、まあ、いいか。また来るの確実だもん。 ちなみに立ち食いではなくて、座り喰いの店であります。

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神奈川県

ビアバー

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「僕らは食欲だけで繋がっている。魚河岸日本一 立喰寿司・渋谷道玄坂店(現在)→横浜地ビール 驛の食卓(過去)の巻」 (「魚河岸日本一」の続きよりスタートします) カトリーヌはお茶を一口飲んだ。 「でも、すごい苦労をしたから今の幸せがあるんだよね。あたしも文代を見てて、もっと自分を大切にしよう、優しいダーリンを探そうって思ったの」 「うちもどうなるかわかんないわよ・・・だけど、吾朗さんとは、この先もずっと一緒にいられるような気はする」 「クーッ。傷口に塩だなぁ。・・・ねぇ、幸せに水を差すようで悪いんだけど」 「なあに?」 「あんた、最近太って来てるわよ、ダーリンと楽しく食べ歩いてるのはいいけど、少しはダイエットしないと」 「ギクッ・・・遠州の魚才に行って、菰塩巻きにしてもらおうかな」 (このエピソード終わり。本編(過去)へ続きます。) 小石川吾朗と服部文代は、花水木が満開となった横浜・関内をブラブラ歩いていた。 文代の友達が結婚することになり、新杉田のベイサイド・アウトレットに、服を見に行った帰りである。アウトレットでも、いい物はそれなりに値が張るが、普通のデパートよりは安く、あまり人とかぶらないので、買い物はいつもここである。 並んで歩く姿は普通のカップルに見えるけれど、どことなく微妙な空気が漂っている。 文代にお友達宣言されてから、吾朗はなんとなく元に戻るきっかけを失ってしまった。 マリリン・モンローのような体が目の前にあるのに、触れることもできないのである。 今日なんか、薄いドレスを何着も、目の前で試着されているのだ。 この辛さ、苦しさは、女にはわかるまい。 前菜、サラダ、スープと来て、メインの肉が売り切れと言われた気分である。 「お腹空いたわねぇ」 「うん・・・」 「うまやの食卓って、この辺だったかしら」 「久しぶりだなぁ」 「ジャパンブルワーズカップ以来じゃないの」 「今年は優勝したんだよなぁ」 お天気も良く、外のテラス席では、異国の人々が横浜ビールで顔を赤くしている。 土曜ということもあり、店は非常に混んでいたが、一階の奥の席が空いていた。 吾朗はピルスナー、文代は横浜ラガーのL(¥1000)を頼んだ。普段飲んでいるビールの値段の2倍はするが、店内で作りたて、搾りたてのビールは新鮮で、大メーカーにはない個性がある。 ピルスナーは爽やかな口当たり、ラガーはこれぞラガー!って感じだ。 パスタランチとピッツアランチを頼んだ。 前菜、スープ、デザートがついて¥1200ほどである。 マルゲリータは生地が薄くてカリカリ、桜エビと菜の花が生麺に絡んだあっさりした味わいのパスタも、ペロッと食べてしまった。 これからどうするんだろうか。 食べている間は良いが、皿とグラスが空になると、2人の距離が気になって来る。 今日も、1人ぽっちの荒れた部屋に帰るのか・・・ 「ああ、美味しかった。また来たいね、ここ」 「結構高いからな、ランチ利用がお得だな」 そんな会話をしながら、みなとみらいを歩いていたが、突然、吾朗が立ち止まった。 「なあ、文代・・・」 「うん?」 続く

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神奈川県

クラフトビアバー

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「僕らは食欲だけで繋がっている。伊勢佐木町・ベイ・ブルーイング・ヨコハマ」 七里ガ浜のホテルに泊まった夜から、麻里は「電車が無くなったから泊めて」と吾朗のマンションに来るようになった。麻里は、〆のラーメンのように吾朗を貪り、吾朗は、ズルズルと吸い込まれていった。 朝、化粧も落とさずに寝ている麻里を見ると、こんな自堕落な生活はやめないとと思うのだが、その決心は長続きしなかった。 そんな生活が、GW連休明けから、半月ほど続いた。 「なんやなんや、えらい顔色悪いやん。飲み過ぎかぁ?」 事務所を訪れた佐原にまで心配されて、吾朗は麻里との再開を話した。 佐原は驚いた顔をしていたが、2、3日後に再びやって来て、 「ちょっと顔貸せや」 近くの和食屋へ吾朗を連れて行き、 「あんなぁ、麻里リンなんやけど、えらいことになってるわ。悪いこと言わへんから、すぐに手を切った方がえぇで」 「何だよ、いったい」 「彼女、お前には旦那のDVから逃げて来た言うてるらしいけど、実際は、銀行の若いイケメンの行員を喰いまくって、旦那大激怒。親が平謝りで矯正する言うて、日本に連れて帰ったんやて。離婚も成立してないらしいからお前、旦那に訴えられる可能性ありやで」 「それ、確かな話なのか?」 「情報ソースは明かせんけどな。確かな筋からやわ」 「わからん。なぜ麻里は嘘をついてまで俺に近づいて来たんだろう」 「お前はトシ食っても、まあイケメンやしな。独身やし、昔の馴染みやし。頼まれたら断われない性格や。浮気相手には都合良いと思われたんやないか。 女どもから、文代ちゃんのことを聞いたのかもしれん。昔から、他人のものは何でも欲しがる女やったさかいな」 「麻里はそんな女じゃないと思うが・・・」 「アホやなぁ。あんな捨てられ方して、まだ目が覚めんのか。文代ちゃんが知ったらなんて思うやろ。可哀想に、こんな甲斐性なしに関わって、ほんまに苦労するわ・・・」 次の日、文代から連絡があった。 会ったからといって文代との仲が進展するかどうかわからないが、外出していれば、麻里の来襲から身を守ることができる。後ろめたい思いで、吾朗は横浜に出向いた。 二人は、伊勢佐木町の裏通りに佇む「ベイ・ブルーイング・ヨコハマ」という、若い男子が切り盛りする小さなビアバーに入った。 カウンター2列とテーブルが2、3個置いてあり、店の右手が醸造所になっている。 吾朗はベイアンバー (ラガーと思えない爽やかな苦み)、文代は岩崎IPA (あまぎ二条大麦をイギリス産麦芽に加えたフルーティな香りが特徴)を頼んだ。クラフトビールはその店その店の特徴が出るが、ここはまだ若い鮎みたいな感じである。 「吾朗さん、頬がこけてるよ。どうしたの?」 「あ、あ、ちょっと忙しくってな、心配しなくていいよ。でもありがとうな」 弱々しく笑った。 「あたしみたいなOLと違って、吾朗さんは社長だものね、責任があるよね」 ウンウンと頷く文代が可愛くて、吾朗は少し泣けて来そうになった。 ラスポテト(もちもちの食感が珍しいフライドポテト)と、汁が激しく飛び散る特大のソーセージを齧りながら、2杯目には、麦の味わいが楽しめるダーチビター (窒素タップ )と、黒ビールなのに爽やかな味わいのポーター(窒素タップ)を頼んでいると、 「あぁら、吾朗じゃあない?」 ハスキーな声が飛んできた。 続く

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「僕らは食欲だけで繋がっている。魚河岸日本一 立ち食い寿司・渋谷道玄坂店の巻」 氷雨のシトシト降るオーチャードホール、満員の観客は、歌舞伎界を引っ張る若い宗家に、惜しみない拍手を贈っていた。 「歌舞伎・能・オペラをミックスした斬新な「源氏物語」。大熱演、大成功だわね」 「海老蔵はもちろんだけど、脇を固める芸達者な役者たちも良かったわねぇ」 芝居好きのカトリーヌと小石川文代は、渋谷に市川海老蔵の特別公演を鑑賞に来たのである。 「仕事から直行したからお腹空いちゃったわぁ」カトリーヌはホールの天井を見上げた。 「でも、あんた、スーパーひたちの時間があるでしょう?」 「今からだと、一時間くらいしかないわ」 「立ち食い蕎麦でも行く?」 「それもいいけど・・・」 文代の脳裏に、吾朗と行った道玄坂の立ち食い寿司のイメージが浮かんだ。 「あの寿司屋さん、何て店だっけ・・・道玄坂から一本入った通りだったと思うんだけど・・・」 2人は、道玄坂を少し歩いた。 「だめねぇ。吾朗さんにメールで聞いてみるわ」 「うちにいるの?」 「わかんない。飲みに行ってるか、仕事してるか・・・」 文代は吾朗に「あの寿司屋さんどこだっけ?」とメールした。 しばらく間があって 「魚がし日本一・立ち食い寿司・道玄坂店」のアドレスが送られて来た。 「あー、そうそう!これこれ。意外と近いわねぇ」 「なんか、いろいろ凄いわねぇ、あんたたち」 カトリーヌがボソッと呟いた。 魚がし日本一は、数ある立ち食い寿司店の中でも、ネタの新鮮さと安さが人気である。盛り場にあっても、大人が入れる落ち着いた店だ。 客の回転は速い。混雑していても、少し待てば食べられる。 2人は奥のカウンターに案内された。 「飲み物はビール?サワー?」 「あたし車だからお茶にしとくわ」 お茶は自分で緑茶パウダーにお湯を注いで作るのである。 「何を握りましょうか」 板さんがタイミング良く聞いてくる。 2人は、〆鯖、すずき、いわしを2個ずつ注文した。 少し小ぶりではあるがどのネタも新鮮で、〆鯖も良く締まっている。 人気のあるネタは、ホワイトボードからどんどん消されてしまうから、食べたいものは最初に注文しておかないといけない。 2人はビールとお茶で乾杯した。 「立ち食い寿司なら早いし、蕎麦よりはリッチな気分になれるからいいわねぇ」 黒鯛、しらす、ほたるいか、と地域性のあるネタを注文する。 「海老様、良かったわねー」 「あたし赤エビが食べたくなっちゃったわぁ」 「海老蔵だけに海老か。それとトロサーモンとたまごね」 「海老の頭はどうしますか」 板さんが聞いてくれる。 吾朗が頼んだように、海老の頭の味噌汁にしてもらった。 海老のダシがきいていて、ずずっと吸い込むと、磯の香りが鼻腔に広がる。 海老ミソをチュッと吸って上がりである。 お酒を飲まなかったので、1人1500円程度である。 「海老様良かったし、お寿司も美味しくて、最高の一日だったわ。トロサーモンが特に良かったかも」 「うん・・・」 「どうしたのよ。元気印のあんたが」 「あっ、ごめんね・・・文代は本当にいい旦那さんを見つけたわねぇ」 「何よ、いきなり」 「あの寿司屋さん、だけで、この店が出て来るなんてさぁ。なんかいろいろ感動しちゃった」 「食べることに関してはどん欲だからね」 「以心伝心、テレパシーがあるのかって思ったわ」 「やや大げさなんですけど」 カトリーヌは茶碗を置いて、 「あたしねぇ、前の彼氏に別れ話をされた時、少しメンタルをやられちゃったの。学生からアラサー越えまで付き合って、当然、結婚すると思うじゃん?そしたら、恋愛と結婚は違うなんて」 「・・・」 「納得できなかったわけよ。それで、彼氏に電話してメールしてLINEもしてって、追っ掛けまくったら、番号もアドレスも変えられて」 「そら、あかんやつでしょ」 「寂しくってねぇ。友達に相談と言って飲みまくり、吐きまくり。此処はどこ?アナタは誰?みたいな生活してたんだよねぇ」 「肝臓は大事にしなきゃ」 「で、文代に会ったら、幸せそのものじゃん? 正直、この世に文代ほど可哀想な人はいないって思ってたの。前の旦那さんはモラハラ、マザコン、嫁いびり、生活費は寄越さない、良く我慢したよねぇ、あのころの文代はガリガリでビックリしたわ」 「今となっては苦労してもいいから痩せたいわ」 (途中ですみません、このエピソード続きますm(_ _)m)

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京都府

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「僕らは食欲だけで繋がっている」 小石川夫妻の京都新婚旅行篇! ②伏見稲荷門前・大栄商店 「伏見稲荷にやって来たぞ〜!」 「わあ、すごい人ねぇ、外国人人気ナンバーワンだけあるわ」 「まるで初詣だな。 まずは楼門だな。奈良時代に創建されてから1300年。応仁の乱で焼けてから100年後に、豊臣秀吉によって生母の病気快癒のために作られたんだよ。日光の陽明門よりもでかいんだ」 「ふーん、さすが豊太閤、派手好みねえ」 「次はこれ。ご本殿の屋根だ。五間社流造と言って、長く伸びた庇が特徴だね。寝殿造りの様式を取り入れているんだ」 「伏見稲荷と言えば千本鳥居だわね」 「明治以降、民間の寄進で作られて、あっという間に増えちゃったそうだ」 「右が入り口、左が帰り道なのに左にどんどんみんな入っていくわね」 「奥の院まで来たぞ、これからは稲荷山だよ」 「結構ちゃんと山なのに、みんな足元が軽装ねぇ。あの外国人はタンクトップにビーサンよ。 ふもとから三の峰、二の峰、一の峰と山頂までぎっしりと鳥居が続いてるわ」 「お供え用のリーズナブルな鳥居も売ってるなあ」 「ハイキングの格好で来たから、ドンドン歩いてもう下りて来ちゃったわね」 「景色も良くて良かったな。麓で精進落としと行くかあ」 「稲荷駅前にちょっとした商店街があったわね。あそこを覗いてみましょうよ」 「そう言えば俺、ご飯にかける山椒ちりめんが欲しいんだよ」 「専門店があるみたいよ」 二人は、「庵」というちりめん専門店に入った。 「いらっしゃいませ」 柔和な笑顔のご主人が迎えてくれる。 「うすくちとこいくちがございます。召し上がってくださいませ」 「美味しい!山椒がピリッと効いて上品な味ですねえ」 「うすくちの中袋¥750をください」 ちりめんを買って駅までブラブラ歩いていると、「大栄」と言う酒店が目に入った。 「杉玉がええ感じやなぁ〜」 「あら奥にカフェがあるわよ。ちょっと覗いてみない」 二人は、酒屋に併設されたカフェに入った。 「伏見の地ビールに、日本酒の飲み比べセットもあるぞ」 「そうねえ、地ビールに合うようなおつまみも頼もうかしら。タコの山椒煮が良いわね」 「今日は暑いからな、ビールが美味いな」 「かんぱーい!あら、このビール!さらっとした口当たりに強すぎない炭酸、すごく美味いわあ!どこの会社のですか?」 「黄桜の地ビールですよ。カッパカントリーで出しているのを、特別に生でお出ししてるんどす」 「タコの煮物も塩っ辛すぎない。甘めの味付けで、関西だなあ」 「みんなカキ氷を食べているけど、どうしたって、お酒に行っちゃうわよねぇ」 「帰りに酒屋で試飲して、美味しいのがあれば買って行くか」 「この英勲というブランドがすごく美味しいわよ。キリッとした口当たりで魚料理に合いそう」 「灘・伏見には大メーカーの酒蔵が軒を連ねているけど、本当に美味しいのは小さいメーカーだったりするんだよな」 「いきなり良いお店に当たって、幸先良いスタートだわね〜」 続く