Masaya Onuki
代々木上原駅
フランス料理
愛のある食卓。 代々木上原駅東口を出て、右手の坂道を上ると見えてくる満席の店内。予約名を告げ、案内された席に着くと、そこからは活気ある厨房でリズムよくお料理が仕上げられていく様子が見える。 シェフが手掛けるお料理は、素材の味を活かした驚くほどシンプルな一皿もあれば、複数の味覚を刺激するような複雑な味わいを構成している一皿もある。ただ、どの一皿も次の一皿の布石になるように緻密な設計がなされており、食べ手はまるで「文脈」のある長編小説を読んでいるかのようなワクワク感を味わうことができる。 完成したお料理は、ホールのセルヴーズへ渡され、各テーブルへと運ばれて行く。目を輝かせながら自信を持って語られる彼女の説明からは、シェフが作り出す料理への愛情が感じられ、緊張した食べ手の心を解していく。 お料理に合わせて、ソムリエが飲み物を運んでくる。シェフが作り出す世界観に優しく寄り添っていたかと思えば、視界ががらりと変わるような感動的なマリアージュを見せてくれることもある。痒いところに手が届くような適切なコメントを添えて、いとも簡単に食べ手の心を奪っていく。 さらにこの店には、いまやメディアに引張蛸の名物オーナーシェフがいる。多忙につきお店で彼の姿を見ることは減ったが、誰よりも料理を愛し、誰よりも食べ手を幸せにしようと努力を重ねているのは、誰の目にも明らかで、そのスタンスは揺るがない。そうは言っても、やっぱりたまには、ホールでゲラゲラ笑いながら、料理愛について語ってほしい。 2022年6月のメニュー ◆トマトの冷製スープ 水を使い、ドライトマトからエキスを抽出したクリアなスープに、鰹節の風味を纏わせたもの。上にはオリーブオイルを数滴。和風テイスト。 ◆馬肉のタルタル こちらのspécialité。カリカリの自家製ラスク生地に、馬肉のタルタルとビーツのマリネを乗せたもの。香り付けには食欲をそそるクミンを。 ◆烏賊墨のチヂミ 烏賊墨を使ったチヂミは真っ黒。チヂミの中にも具として烏賊が使われる。外はカリカリ、中はフワッと。オクラが敷き詰められたチヂミの表情も美しい。コクのあるチヂミには、オイスターソースとバルサミコ酢を使った甘酸っぱいソースが良く合う。 ◆帆立貝とアスパラガスのサラダ仕立て 温と冷、二つの温度帯に仕立てた野菜を一つのお皿に盛り込んだ一品。根セロリのピュレの上に、ソテーした帆立貝とアスパラガスの温かいパーツを乗せ、さらに、スナップエンドウ、キウイフルーツ、リーフレタスなどの冷野菜で飾る。塩味には自家製ビーフジャーキーを、帆立貝に合わせるようにクラムチャウダーの泡を乗せる。複数の味が口の中で重なり合い、多幸感をもたらす。 ◆じゃがいものニョッキ 軟らかく、もっちりした食感。口溶け滑らかで、咀嚼しているうちにじゃがいもの香りを残して溶けていく。ホワイトアスパラガスは瑞々しく、食べ応えもある。白味噌を使ったソースが絡み、まろやかな仕上がりやまつ辻田さんの柚七味が良いアクセントになっている。 ◆金目鯛のポワレ 金目鯛は、旨味を携えたしっとりとした身質に、パリパリした食感の皮目。胡麻油が香る、蛤出汁の利いた中華粥をソースとして合わせるという発想。味わいは穏やかだが、口に入れたときに感じられるインパクトは大きい。 ◆大山どりのロティ 大山どりモモ肉のロティ、砂肝のコンフィ、レバーペーストを盛り付けた、焼鳥をイメージした良いとこ取りの一皿。マルサラワインとフォン・ド・ボーを合わせた、焼鳥のタレを思わせる甘じょっぱいソースがよく合う。付け合わせにはピーマンと辣韭の酢漬けを。 ◆鶏ブロードのリゾット 穏やかだが濃厚。食感のアクセントには刻んだセロリを。やまつ辻田さんの山椒がふりかけられ、香りと味わいにメリハリが生まれる。 ◆蛤のボンゴレ・ビアンコ プリプリの蛤を使ったボンゴレ・ビアンコ。乳化した蛤の出汁が太めのスパゲッティによく絡む。 ◆アヴァン・デセール ライチのパンナコッタに、ほろ苦いグレープフルーツの果肉と抹茶のグラニテを合わせた清涼感あるデセール。 ◆グラン・デセール 白カビチーズであるブリア・サヴァランと練乳を使った、定番のアイスクリーム。出来立てのため、口溶けは滑らか。コク深さの中にほんのり酸味があり、濃厚な味わいでありながら後味は爽やか。 #フランス料理 #イタリア料理