松 宏彰
北松本駅
洋食
「1分ナンテ待たせるもんですか!」 印象的なキャッチ。 ここは松本で『キッチン南海』と並ぶ庶民派洋食カレーの老舗。 『キッチン モーリ』 通り名は「カレーのモーリ」。 昭和風情漂う店内は、席間広くてアットホーム。 おかみさんの明るい接客がチャームポイントです。 カレーはバリエーション豊富。 ですがまずは基本のカレーをいただいてみましょう。 で。 オーダーするとホント1分たたずにカレーが出てきてビックリ! ★ポークカレー ¥650 美しい照り、素晴らしい粘度。 昭和カレーライスの基本といえば、関東はポークで関西はビーフ。 ここ松本はカレー文化圏としては関東寄りということですね。 シンプルながら旨みが行き渡ったルウ、そしてほのかな酸味。 この昭和の味わい、実に貴重です。 一気にペロリ完食してしまいました。 食後、おかみさんと談笑。 『キッチン モーリ』先代のご店主は松本駅前で大正時代から続く『タツミ亭』の長男。 (現在の『タツミ亭』) 終戦後、日本が高度経済成長期に突入し「これからはスピードの時代!」と独立。 当時松本で一番勢いがあった上土に『キッチン モーリ』を創業。 時は昭和33年(1958年)、東京タワーが竣工したその年です。 (上土『キッチンモーリ』創業の地。現在は居酒屋『酔い亭』が営業中) 働いて頑張ればどんどん給料が上がった時代。 寝る間も惜しんで働くサラリーマンのニーズに合わせたキャッチコピーが「1分ナンテ待たせるもんですか!」なのですね。 また、お隣の東映など映画館も多かった上土。 二本立て三本立て上映のあいまにサッと食べられるカレーとしても人気を博したそうです。 およそ10年後の昭和42年(1968年)には2号店を蟻ヶ崎にオープン。 時代が流れ、上土の街の変遷に伴って2002年、上土の本店を閉めて蟻ヶ崎店に一本化。それが今の『キッチン モーリ』というわけです。 高度経済成長期のニーズに合わせつくられたカレーは、鶏ガラでとったスープをベースに、英国製「C&B」カレーパウダーと豚肉、玉ねぎ、鶏の中肉でじっくり煮込んだもの。 一度パックしたものを湯煎することで味を全体に行き渡らせつつ、驚くべき提供スピードの速さを実現しています。(練炭であたためるのだとか) 松本出身の画家であり美術鑑定家としても知られる滝川太郎氏は、生活が苦しかった若い頃『キッチン モーリ』に通い、時には店主に賄ってもらったりもしたそうで、店内には滝川太郎氏が『キッチンモーリ』に贈った絵画が飾られています。 ガンジーや仏様がモチーフになった作品は2つあり、厨房側に飾られたものは蟻ヶ崎店に。 反対側の壁に飾られたものは上土本店に贈ったものだそうです。 2代目となる現在はご主人は厨房に。おかみさんがホールを担当。 おかみさんはかなりの阪神ファンで、その他あらゆるスポーツ観戦がご趣味。そのあたりの話題になると話が尽きません! 美味しいカレーと楽しいトーク。まるで実家です。 そんなところも『キッチン モーリ』が長く愛されている理由なのでしょうね。